イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

村上鉄軍

2010-10-24 18:52:58 | 朝ドラマ

昨日の記事からの“村上つながり”じゃないけど、すぐれて日本人的にコントローラブルな“良き作りモノ”と言えば、代表選手のひとりがNHK朝ドラです。国内作りモノ界の伝統校、古豪と言ってもいいでしょう。今年度の旗手は『てっぱん』の村上あかりちゃん(瀧本美織さん)ですよ。

 先週(18日~23日)の前半は、“擬似家族=ひとつ屋根で食卓を囲むこと”礼賛と、黙って食事を提供するだけでなく「おいしいね」「ごちそうさま」と言いかわす笑顔の中で“戸惑いつつもちょっぴり心を開く初音おばあちゃん”に持って行きたいために、クチの減らないきかん坊に見えた民男くん(前田航基さん)を唐突に“実は学校でいじめにあっていた”ことにしてみたり、ちょっとゴツゴツ嚥下し辛い展開が目立ちましたが、素人ブラバンの練習にかこつけてプチ家出してきた加奈(朝倉あきさん)と、見送るあかりとの夕暮れのプラットホームでの場面がよかったですね。

あかりと初音さん(富司純子さん)と、亡き千春さん(=初音のひとり娘であかりの生母)の遺品のトランペットとのかかわり、あかりと初音がそれぞれにこの楽器に対して抱くわだかまりを呑みこんだ上で、「あのさぁ」「あかりを産んだ人のものじゃったけ吹いたらいけん言うんは、うちは逆じゃと思う」「あのトランペットを吹くんは、ほかの誰でもなくて、やっぱりあかりじゃ」「ちゃーんと話し合うんよ、お祖母ちゃんと」「うちは好きよ、あかりのお祖母ちゃん」と、加奈は背中を押してくれました。

 最後のひと言が特によかった。あかりがいまだ全面的に心の錠前をはずせずにいる初音お祖母ちゃんを、親友が「好き」と言ってくれた。「怖い人ね」「あかりも苦労するね」なんて言われたら、不幸の駄目押しみたいで落ち込みますよ。すでに加奈来訪時、初音さんてばいきなり肩揉ませてるわ、料理を褒められれば美味しい煮豚の味のしゅませ方をトクトクとレクチャーするわで“開かずの間じゃない、開ければ開く”ところを、はしなくも垣間見せてくれています。偶然の間合いと言うか、血縁という重石のない、私心もない他人の若い娘が一瞬吹き込ませたさわやかな風が、千春のトランペットを見つめる初音さんの視線をも温かくしました。「また戻ってきたんか…」。

このドラマ、いまのところあかりと初音の“ラブストーリー”と言っていい地合いになっていますから、“思う人を、親友が「いい人」と評し、好きになってくれた”というイベントは、あかりの心の節目として大きかったと思います。家族界、親戚界、ご近所界、学校界、職場界…と、人はいろんな世界の複合の中で生きており、それぞれの世界で自分が親しい人、好きな人、味方になってくれる人同士が接点を持ったとき、好感を持ち合ってくれるというのは嬉しいものです。

 加奈は高校生時代から、あかりの次兄鉄平(森田直幸さん)に思いを寄せていて、花火大会に誘うなど年頃なりのかわいらしいアプローチを試みているのですが、鉄平くんはなかなか定まらなかった自分の進路問題や、思いがけず出生の秘密が発覚した妹の心配に忙しくて、なかなか加奈ちゃんを異性として見てくれず、「両思いへは遠い道程じゃのう…」状態です。あかりは加奈の気持ちを知っていて、できれば親友のためうまくいってほしいと思ってはいますが、お先走りに仲を取り持ったりはしません。

 劇中での“恋愛感情”の取り扱い方の、こういうさりげない淡白感も、月河がこのドラマをいまのところ好ましく思っているひとつの要因のような気がします。同枠前番組『ゲゲゲの女房』も典型的にそうでしたが、人の世のいろんな感情や情念や欲望の中で、恋愛というものだけを単体で過剰に称揚せず、「そういうものもあるよね」ぐらいの体温で突き放しているドラマが、月河は本当に好きなんだなあと実感しました。

じゃあ三度のメシを四度にしてもの勢いでウォッチしている昼帯ドラマはどうなんだ、とツッコまれそうですが、好いた惚れた略奪した孕ませたみたいなことを年じゅうやっているかのように思われがちなあちらの世界も、ちゃんと観て読み解いていれば、実は恋愛感情は作劇上のとっかかり、起爆剤に過ぎず、主役は“プライド”“コンプレックス”“妬み嫉み”“報復感情”“上昇志向”などだったりすることのほうが多いのです。

お年頃で、出生絡みの悩みを抱えながらも明るさ元気さいっぱい、食欲もりもり健康感にあふれ、かつ周りに気い遣いでもあるあかりちゃんは、“男がみんなメロメロ”みたいなフェロモンこそないけれどどこへ行っても同性異性問わずに好感度高い、教科書的なNHKヒロインタイプ。下宿人の寡黙な駅伝くん(長田成哉さん)を筆頭(か?)に、音大講師で素人楽団の指揮者“ブラバン王子”(柏原収史さん)、頼りないが気のいいかつお武士社長(趙珉和さん)と、お似合いでなくもない独身男性は結構登場しているし、なんなら血縁はないとわかった長兄欽也さん(遠藤要さん)、鉄平兄ちゃんだってシングルですから、ドロドロかえりみず参入する権利は留保しているわけですが、みだりに“フラグ”立てずに、当分初音おばあちゃんとの交流なるか?メインでいってほしいですね。

「話し合いたい、解り合いたい、でも申し訳なさや遠慮や、つらい記憶が邪魔してなかなか」と互いに思い合っているじれったさ、「ホラもっと」「そこで頑張らないと」「あーダメじゃん」と観ていてジリジリしながら応援する、これでじゅうぶんラブストーリーですからね。

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