3・11(金)の震災以降、地上波でのレギュラー放送が中断されていた『てっぱん』。福岡の会社に移籍が決まった駅伝くん=滝沢さん(長沢成哉さん)が、復帰緒戦のマラソンで最後の最後、ゴール前直線で逆転優勝、スタンドで見つめるあかり(瀧本美織さん)に向かって勝利の拳を突き上げたところまでは同日朝と昼の定時放送でお茶の間に届いたのですが、その日の午後2:46に、リアルの日本では世界が一変。津波とその後の荒廃に蹂躙された一週間と1日の後、本日19日(土)にようやく、約束を果たした滝沢さんはあかりに何を伝えたかったのかが明らかになりました。
ゆーらゆーらには参ったもののどうにか被災地とはならずに済んだ月河家では、高齢家族のボケ対策も兼ねて、週明けひと足早く復活した早朝のBS‐hiを録画して追尾していましたが、あかりと滝沢くん、ホットで気ぃ遣いで情の深い性格なのに恋愛にだけは偏差値の低い同士の、初めての不器用な抱擁シーンは、できれば“ビフォー”の、平和な朝の食卓で大勢の日本人にほのぼの観てほしかったなあと思いました。このドラマを製作したスタッフも、時もあろうに終盤最大の山場である“駅伝くん復帰優勝”と“あかりの「うち…(“伝えたかったこと”を)聞きたい…」逆告白→抱擁”との間に、有史以来のメガ天災がお邪魔虫するとは思いもよらなかったでしょう。
改めて、連続ドラマとは“連続していること”が最大のチカラなのだと思い知らされます。ストーリーだけではなく、視聴しているこちら側、何千何万の観客視聴者、それぞれの人生が連続していること。今日と同じくらい安穏な明日、昨日と同じように朝食の膳につき、或いは休憩室のテーブルに弁当を開いて、昨日のお話の続きにチャチャを入れる余裕のある今日。
書き割り一組、薄紙に描いた餅の絵一枚ぐらいはかない連続性でも、それがきっとある、明日も明後日も来週も、3ヵ月後、半年後も必ずあると信じたいから、人は連続ドラマにチャンネルを合わせるのかもしれない。
深刻な被害を受けた地域の方々には、災厄後のこの8日間にどうにか人心地を得て、TV視聴可能な状況に戻り、「あぁ、やっと朝ドラをまた観られるようになった、よかった」と安堵している向きはむしろ少数で、寒い避難所に1台きりの、NHKつけっぱなしのTVが、震災前と同じ時間に『てっぱん』のテーマ曲とてっぱんダンスを流しはじめるのを見て、「ついこの間は暖かい部屋で、熱々ご飯を囲み家族と一緒に見ていたのに」と、改めてやりきれぬ侘しさを噛みしめている人が多いかもしれない。
あるいは、TVのドラマに見入るなんて行為自体、脳裏をかすめもしない苦境に忙殺され押し潰されそうになっている人が、さらに圧倒的多数かもしれません。
被災せずに済んだ日本人たちも、この8日間の悪夢のような状況、恐怖をかき立てる情報にさらされて、以前と同じ心の地合いで、あかりちゃんたちのやりとりや表情を受け止め、ともに笑いともに涙し、ときにツッコむことはできなくなっています。心のどこかに「所詮作り話」「こちらのリアルな悲しみ、喪失感、無力感に沿うてはくれない、救ってもくれない」という冷厳な距離感がある。所謂、ゆるドラマ、コントドラマに興じていて皆で指さして笑いながら言う「どうせドラマだからなギャハハ」とは根本から違う断絶感です。
3・11は、TVのこちら側の、ドラマよりはるかにたくましく、生命力に満ちていたはずの“連続性”を、斯くも無残に、何のためらいもなく断ち切りました。
連続していてこその人生。連続しているように見えて、書き割り一枚破れると何ひとつ連続していないのも、また人生。人の“平和”、そして人の“幸福”と言うのは、政治家や思想家のイデオロギーでもマニフェストでもなく、巨万の富や豪邸でもなく、“連続ドラマを連続して観られること”に他ならないのではないでしょうか。
若いあかりちゃんと滝沢さんの、劇中最初で最後かもしれない甘いハグは、2011年3月19日、朝の日本に、別のせつなさをしんしんと実感させる場面になってしまいました。
連続性と言えば、昼の月~金『さくら心中』も、11日の放送を最後に、週があらたまっても明日復活するか、明後日復活するかと思ううちに結局まるまる一週休み、来週21日(月)まで先延ばしに。中澤裕子さん扮する激愛の女・明美「比呂人はワタシのものや!ワタシだけが永遠の愛を手に入れたんやぁ!」と、桜子&さくら母娘たちの目の前で高笑いしながらの自刃という、凄絶な幕切れの余韻もさめやらぬまま、いきなり“6年後”に飛んでペンディング状態。女性軍のすさまじい愛欲劇に巻き込まれた比呂人(徳山秀典さん)がアクシデンタルにあっさり刺されて、こちらはある意味、ここで断ち切られても切り良く“あとは後日譚”。来週から復活放送が告知通り始まったとしても、『てっぱん』同様、観るこちらの心理の地合いが一変していますから、なにやら明美ねえさん、本当に“勝ち逃げ”の様相も呈しています。
折りしも番組改編期、『てっぱん』の後クールの『おひさま』開始が、当初の3月28日(月)から一週後送りになったように、この枠も後番組『霧に棲む悪魔』が予定の4月4日(月)からずれ込むのかしら…なんて先回り心配している月河の人生は、どっこいまだまだ連続しているか。
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