『さくら心中』のいさみや酒造も、櫛山社長(赤ら顔メイクに詰め物メタボ腹で奮闘の神保悟志さん)が桜子(笛木優子さん)に鼻毛抜かれたせい?でにわかにホトケ心を出し、吟醸酒醸造を復活させましたが、アルコールとの付き合いかれこれ30年になる月河も、日本酒だけはいまだに“御せてないなあ”と思うジャンルです。
商品としても、日本酒って山のように銘柄やテイスト(甘←→辛、淡←→醇など)分けがあって、奥が深いじゃないですか。どの辺の銘柄を、どんな飲みかたで、どんな料理とともに、どういうシチュエーションで飲めば旨いのか、心地よいのか、そこがどうにも掴めない。
たとえば初夏のカラッと晴れた日に、屋外での販売応援などでいい汗をたっぷりかくと、「あ~これから帰り、ホルステン置いてる店まで足伸ばして、霜付くくらいキンキンに冷やし直してガーー行きたい」と思うし、百貨店の乳製品フェアで、切り口の真ん中だけ帯状にクリーム色した、外側は悪女のように色白のブリーチーズを見つけると「B2に寄ってカベルネ・ソーヴィニヨン買ってくか、TPPのおかげで安くなったチリ産でもいいや」となるし、フレッシャーズ時代に一緒にアホやって職場を騒がせた仲間と再会するなら、「ワイルドターキーが中途半端に残ってるから、空けるの協力しなよ、氷だけ駅前で買ってきて」と頼んでおく。
…日本酒の場合、そういった“こういう時にこんなノリで飲みたい”がなかなか浮かんでこないのです。
それでも先日、“飲むなら日本酒”の人と自宅で付き合うことになりました。自分だけ発泡酒で伴走となると、缶あけるのがせわしなくてメンドくさいし(←せわしなくないペースで空ければいいのだが、泡モノをチビチビ、刻み刻み飲むのはオモシロクない)…と、某・K正宗辛口を、そうねえ、直径5.5センチぐらいの切子のグイのみでお相伴したわけですよ。いきなりだから大した料理も作ってられません。烏賊の辛子面太子和えに、グリーンアスパラ(←時節柄、当地産というわけにはいかずニュージーランド産)をグリルで焼いてポン酢醤油にぶっ浸けたやつをつまみにしたりなんかして。
…いやぁ、キクねえ日本酒。K正宗だけに。
「烏賊旨いね」「明太子もうないから、山椒昆布の佃煮和えでもいい?」「何でもいいよ、足10本ついてれば」「烏賊リング揚げとけばよかったかな」「作りながらじゃ落ちついて一緒に飲めないし、いいよ」「私たち揃って烏賊好き、タラコ好きだもんね、コレステロール尿酸値上がるね」「なに、こんな時代、好きな物たらふく食って飲んで、早く死んだ者勝ちだよ」「我々が早死にしても、上の団塊がしぶとくごっそり生き残るしね」「団塊の老後の面倒みるはめになるだけなのに、健康健康言って長生きしようってヤツらの気がしれない」「日本の断末魔は団塊にみとってもらおう」「ザマ見ろ団塊」「わはは」「がはは」と怪気炎したところまでは覚えているのですが、その後どうやって食器片付けて、タクシーを呼び玄関まで見送ったもんだかさっぱり思い出せない。
翌日昼過ぎ、見送った当人から、「いろいろご馳走になってありがとう」「今度行くときはこっちの名産、何か持ってくから、穴子とか」と電話が来たので、暗に“料理が少なかったよ”という意味かな?…とも思いましたが、とにかく思い出せない。
意外と、向こうも何出されたか思い出せてなかったりして。
とにかく油断なりません、日本酒。辛口をキンと冷やしてクッといくの、味としては美味しいのはわかるのですけれどね。御せてないのだよなあ。
ドラマの『さくら心中』は、桜子が櫛山社長に結婚を迫り、打算上等のふてぶてしさを隠さなくなった辺りから、ある意味持ち直してきました。桜子の心中騒動、さくら(篠川桃音さん)奪還劇から9年、女子中学生に成長したさくら(林丹丹さん)は血のつながらない兄・健(真山明大さん)大好きの多感な少女で、実母桜子がもたらした複雑な家庭環境と、クチさがない町の噂に心いためている最中ですが、健はすでにさんざん家の内外で人間の醜部を見せつけられて、揉まれ叩かれた結果、一種の開き直りに達し、東京に学ぶお坊っちゃん大学生としてマイペースとある種のシニシズム、エゴイズムに生きています。
さくらが預けられた押川家の養子のひとりで、養母の虐待の日々の中で幼いさくらを衷心いとおしみ、さくらも当時は実の兄のようになついていた陸雄(この枠2006年『偽りの花園』以来の佐野和真さん)は、高卒後辛酸をなめましたが縁あっていさみ酒造に雇われる身となり健・さくらと再会。こちらは可憐な少女に成長したさくらに、妹としてかわいがる懐かしむのとは別の感情も芽生えたようで、健兄ちゃん大好きのさくらをはさんでまた別立ての情念劇がスタートしそうです。
中学生さくらを演じる丹丹さんの、神経質キッツそうなところと、その神経が剥き出しで寒風にさらされているようなイタさとを兼ねそなえた雰囲気がいいですね。おかれた状況としてはかわいそう過ぎるくらいかわいそうなんだけれども、どっかピリピリツンケンして「可愛げがねーなこのアマは」という気も微量起こさせる。“S心”を刺激されるとでも言うか。
微妙な丈の白ソックスにヒザの見えるミニスカート、“お手伝いさん風”の田舎ツインテールにビニールのハンドバッグ、設定時制としてはプレバブルの昭和60年ぐらいなのかなというところですが、そこからさらにもうひと昔遡ったような、“自意識を持て余し気味”の時期を迎えた、地方の狭い古都で暮らす女子中学生に、丹丹さんのオールドファッションド東洋美少女顔がナイスマッチです。
“林丹丹”さんという芸名、米倉涼子さん主演のドラマのクレジットで2~3年前に初めてお見かけして、“りん・たんたん”なのか?だったらあまりにも、歌のように音韻がリズミカル過ぎね?母さんのお肩をたたいてるか、いっそ銀の小粒のスッとするやつみたいだし?“はやし・にに”?(←青丹よし奈良の都は咲く花の~ってぐらいなもんで)とかいろいろ考えたものですが、“はやし・たんたん”でいいみたいです。今作でやっと確認。長々ご無礼いたしました。