Blog of SAKATE

“燐光群”主宰・坂手洋二が150字ブログを始めました。

トレーシー・レッツの新作

2012-08-26 | Weblog
加藤健一事務所 『シュペリオール・ドーナツ』初日。下北沢ザ・スズナリ。『BUG』の作者トレーシー・レッツの新作が観られるのは嬉しい。加藤健一事務所さんに感謝。というか、日本ではまだ今まで『BUG』しか上演されていなかったんだね。トレーシーはアメリカの若手劇作家としてはダグ・ライトよりはるかにアングラなのであるが、本作は過激さはなく、ちょっと不思議な人生ドラマ。彼は映画界でも活躍するジョン・マルコビッチやゲーリー・シニーズらの属するシカゴ・ステッペンウルフ劇団の一員だから、「今回はノーマルなストレートプレイを」という要請を受けたのかもしれない。移住民のドーナツ屋がワケありの若者を雇い互いに共感を育むというのは、今年新国立劇場で上演された『負傷者16人』と似ている(そちちはパン屋だが)。御都合主義的な所もないではないが、レッツ独特のしつこさも時折り垣間見え、皮肉な台詞もあり(どのくらい意訳しているかはわからないけれど)、独特の味わい。じつのところ、昨日某所で燐光群版『BUG』を再演しないのか、と言われ、確かにまたやってみたいなあと思ったばかり。衝撃度はかなり高くリピーターも多かった『BUG』はしかし、他に相似した劇を想定できない、時代そのものを反映する特権的作品だったと、あらためて思う。今のところ、数十年後にトレーシー作品で残っているのは『BUG』『八月、オーセージ郡で』だとは思う。……加藤健一さんがスズナリに出演するのはもの凄く久しぶりだそうである。この劇場だからこその、抑制。その点で、俳優演技に関心のある者は、いつもと違う今回のこの加藤さんの呼吸の使い方、周波数の整え方は、一見の価値ありである。テンポじたいはもっといろいろ変えられるのではないかと思う。……小さい劇場で皆が外国人を演じるのはなんだか距離感が近く、はまっているかどうかに個人差が出るせいなのか、不思議な趣き。塩田朋子さんの婦人警官は美人すぎるのが楽しいところ。有馬自由くんは最近こういう役回りを得意としているようだ。私のスズナリでの初舞台でご一緒だった田根楽子さん、考えてみるともう三十一年前。あの時私はラストでヒロインの楽子さんを捕まえる警官の役だった。ストップモーションで大量の砂を浴びたものだった。いろいろな既視感、オフブロードウェイの空気への連想。日々の仕事に追われつつも、劇場にいれば、その時だけは、あれこれ妄想。演劇は自由だ。いろいろ思うところはあれど、今の私はこうして演劇人として励まし合えることが、嬉しいのだ。
コメント (1)
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