韓国の劇団青羽『そうじゃないのに』を観る。李美慶の戯曲、演出は金洸甫(キム・カンボ)。主演は尹相華( ユン・サンファ)。昨年韓国の演劇賞を十賞獲得、ほぼ総なめした作品。ソウルでの再演に続いての東京公演。これが上演時間六十五分、俳優も五人だけの小品であった。舞台道具はテープルと椅子だけで、カンボにその日本での調達を相談されたものの、私が沖縄にいたので果たせなかったが、韓国版の写真を見た限り、取調室を舞台にしたわりにはシンプルとはいえけっこうお洒落な路線の家具類で、それは持ち合わせがなかったということもある。本番を観るとやはりお洒落な物を入手していて、結果的には、それでよかった。カンボによれば、最近の韓国演劇界は中劇場や商業ベースのものが増えてきて、それを疑問視する風潮もあり、「小劇場=演劇の初心に還った」この作品を、みんなが高く評価してくれたのではないかということだ。カンボが日本での上演にタイニイアリスを要望したのも、その理由によるものだという。タイニイアリスは三十年間、小劇場のできることは何かをフルに探ってきた老舗だ。……私が韓国で演出した韓国俳優版『屋根裏』とインターナショナル・コラボ版『裏屋根裏』でも大活躍だったサンファが主人公。繊細かつ身体的な演技を、じつに自然な説得力を持って見せてくれる。象の調教員がオイディプス的に追い詰められてゆくのだ。戯曲もよくできている。……カンボ演出の韓国版『ブラインドタッチ』は、韓国で最初に上演された私の戯曲だが、初めてその打ち合わせをしてからもう十年以上になる。一昔前の韓国は法律統制で日本文化を輸入してはいけなかったので、設定を韓国に置き換えるかなどと相談した。結果的には日本の設定のままでやったが、まだそれが珍しい時期だったのだ。……ともあれ、韓国の仲間たちの充実して元気な姿は嬉しい。(写真は右から、カンボ、サンファ、私)
「そうじゃないのに」上演情報 http://www.tinyalice.net/
最終候補に残っていることは察していたが、中澤日菜子さんが「小説現代長編新人賞」に決まる。新聞報道では受賞者紹介で「東京都在住の劇作家」とされている。彼女は劇作家協会戯曲セミナーの第一期生であり、この春まで研修課では私のクラス。かつて戯曲でも幾つも新人賞を取っているのだが、今後は小説と戯曲の両輪で活躍していくことになるのであろう。めでたい。考えてみると中澤さん、『大平洋食堂』の嶽本さん、研修課で私が担当する女傑二人は、大作主義だ。『そうじゃないのに』を観ると、あらためて小作品もいいものだと思うが、長編を書くことのできる体力は必要なこともある。頼もしい限りだ。
自民党は、TBSの報道番組「NEWS23」の6月26日の放送について「電気事業法改正法案など重要法案の廃案の責任がすべて与党側にあると視聴者が誤解するような内容があった」として訂正と謝罪を求めたが、「誠意ある回答を得られていない」として、TBSの党幹部への取材や番組出演要請を当面拒否すると発表した。これは報道の自由を否定するもので、許されるべきではない。
維新の会・橋下大阪市長は、参院選候補を支援するための沖縄での演説で、戦後の米軍統治下の沖縄で米兵向けに設けられた慰安施設について、「端的に言えば、レイプを止めるためにそのような施設をつくった。沖縄県の女性が一生懸命になって、そういうことをやってくださった。そういう女性たちに感謝の念を表して、そこで悲惨な境遇を受けた場合にはおわびや反省もしなければいけない」と発言。この人に感謝されても嬉しいはずがない、ましてや見当違いも甚だしい内容でだ。「お国のため」「軍隊」を肯定するための、ねじ曲がった理屈だ。さらに彼は、5月の米兵風俗利用発言を撤回、米側に謝罪の意を示していたはずが、「米国に言いたい。あんたたちも過去に女性を性の対象として利用しただろう」と開き直った。「米軍の沖縄占領時、日本の政府が真っ先に作ったのは、RAAという特殊慰安所協会だ」という彼の主張は前回同様だが、日本政府が米国占領下の県内で、RAA=特殊慰安所協会慰安所を設置した事実は、確認されていないはずだ。そのことについては各方面が「事実誤認」としても批判していたが、耳に入っていなかったようだ。
女性蔑視といえば、スケートの安藤美姫選手の出産について週刊文春は「出産を支持しますか?」「子育てしながら五輪を目指すことに賛成ですか?」と「安藤選手の出産賛否を問う」アンケートを始めようとして批判され、抗議の集中に耐えかねたか、謝罪文を掲載、アンケートを中止することにしたという。
差別というものは、している側は気づいていないことも多いが、橋下市長はほんとうに責任を取る勇気はないのか。
『そうじゃないのに』というのはなかなか良いタイトルである。今日はカンボたちの劇と中澤さんのことがあるので、いい話題にも恵まれたが、昨今の事象の多くは「そうではないのに」と言いたい気持ちになるのものばかりだからだ。
「そうじゃないのに」上演情報 http://www.tinyalice.net/
最終候補に残っていることは察していたが、中澤日菜子さんが「小説現代長編新人賞」に決まる。新聞報道では受賞者紹介で「東京都在住の劇作家」とされている。彼女は劇作家協会戯曲セミナーの第一期生であり、この春まで研修課では私のクラス。かつて戯曲でも幾つも新人賞を取っているのだが、今後は小説と戯曲の両輪で活躍していくことになるのであろう。めでたい。考えてみると中澤さん、『大平洋食堂』の嶽本さん、研修課で私が担当する女傑二人は、大作主義だ。『そうじゃないのに』を観ると、あらためて小作品もいいものだと思うが、長編を書くことのできる体力は必要なこともある。頼もしい限りだ。
自民党は、TBSの報道番組「NEWS23」の6月26日の放送について「電気事業法改正法案など重要法案の廃案の責任がすべて与党側にあると視聴者が誤解するような内容があった」として訂正と謝罪を求めたが、「誠意ある回答を得られていない」として、TBSの党幹部への取材や番組出演要請を当面拒否すると発表した。これは報道の自由を否定するもので、許されるべきではない。
維新の会・橋下大阪市長は、参院選候補を支援するための沖縄での演説で、戦後の米軍統治下の沖縄で米兵向けに設けられた慰安施設について、「端的に言えば、レイプを止めるためにそのような施設をつくった。沖縄県の女性が一生懸命になって、そういうことをやってくださった。そういう女性たちに感謝の念を表して、そこで悲惨な境遇を受けた場合にはおわびや反省もしなければいけない」と発言。この人に感謝されても嬉しいはずがない、ましてや見当違いも甚だしい内容でだ。「お国のため」「軍隊」を肯定するための、ねじ曲がった理屈だ。さらに彼は、5月の米兵風俗利用発言を撤回、米側に謝罪の意を示していたはずが、「米国に言いたい。あんたたちも過去に女性を性の対象として利用しただろう」と開き直った。「米軍の沖縄占領時、日本の政府が真っ先に作ったのは、RAAという特殊慰安所協会だ」という彼の主張は前回同様だが、日本政府が米国占領下の県内で、RAA=特殊慰安所協会慰安所を設置した事実は、確認されていないはずだ。そのことについては各方面が「事実誤認」としても批判していたが、耳に入っていなかったようだ。
女性蔑視といえば、スケートの安藤美姫選手の出産について週刊文春は「出産を支持しますか?」「子育てしながら五輪を目指すことに賛成ですか?」と「安藤選手の出産賛否を問う」アンケートを始めようとして批判され、抗議の集中に耐えかねたか、謝罪文を掲載、アンケートを中止することにしたという。
差別というものは、している側は気づいていないことも多いが、橋下市長はほんとうに責任を取る勇気はないのか。
『そうじゃないのに』というのはなかなか良いタイトルである。今日はカンボたちの劇と中澤さんのことがあるので、いい話題にも恵まれたが、昨今の事象の多くは「そうではないのに」と言いたい気持ちになるのものばかりだからだ。