『うちの子にかぎって…』『パパはニュースキャスター』『君の瞳に恋してる!』等のドラマで知られるシナリオライターにして最近は戯曲も手掛ける、伴 一彦 さんの、新著。
「追憶映画館 テアトル茜橋の奇跡」(PHP文芸文庫)。
映画と映画館にまつわる、連作小説である。
同じ映画でも、いつ、どこで、誰と観るかで、体験としてはそれぞれの人にとって、違う。
ということは、一つの映画を通して、様々な人生を送る人々が繋がっている、ということでもある。その構造がこの小説の幹である。
わかりやすく読みやすい中に、ドラマを書いてきた人の職人的な省略の手法を感じさせる。プロットだけで相手を説得させなければならないことが多い仕事ならではの腕力ともいえるだろう。「観客に想像させる」ことを選択した文体である。これは、既成の映画を引用するときのバランスの取り方として選ばれたものであろう。
エピソードと人間関係に類似性が強いところ、「誤解」によって展開するケースが多いのがもったいない気がするが、そうした人たちが吸い寄せられた場なのだと、理解すべきなのだろう。そこに、悠々と、豊かにこの世界を見つめようとする、伴さんの感受性がある。