映画『はりぼて』は、日本の現実のある局面を、まるまる描くことに成功している。
2016年8月、富山市の新進ローカル局「チューリップテレビ」が「自民党会派の富山市議 政務活動費事実と異なる報告」という、不正を告発するスクープをした。
有権者に占める自民党員の割合が10年連続日本一での保守王国、富山。この市議は“富山市議会のドン”といわれていた自民党重鎮で、自らの不正を認め議員辞職。それを皮切りに議員多数の不正が次々と発覚、半年の間にドミノ倒しのように14人の議員が辞職していった。
最初のスクープ番組じたいが高く評価されたというが、この映画は、さらにその後を追って、一本のドキュメンタリーにまとめたものである。3年半が経過した現在、不正が発覚しても議員たちは辞職せず居座るようになっていたのだ。
なにしろ笑えるドキュメンタリーである。
強気の発言をしていても露見すると辞職する議員たちの姿の滑稽さ。
音楽や狸の置物といった、ださくなるぎりぎり一歩前の仕掛けも、多々。
人間の惨めさ、愚かさ、弱さを、容赦なく描くが、何がすぐれていると言って、この映画は決して「上から目線」ではないのだ。作り手たちは、怒りや憤りはもちろん持っているが、正義を振りかざすのではなく、ただそこに、いるのだ。
現実は、厳しく、寒い。
河井克行・案里夫妻に選挙で買収された広島の議員たちも無罪放免となっている。
この国に、正義はない。
百聞は一見にしかず。
「当事者」としてそこにいる者たちの、映像の力を感じさせるドキュメンタリーである。
笑えて、寒い。
しかし、この状況に対して、なんとかしなければ、と、観る者を鼓舞する力がある。