日が暮れてから「トムニー」という小さな駅に到着しました。
我々の向かった先はそこだったのです。ロシアの兵隊が大きな声で叫んでいました。手招きで列車から降りろと言っていることが分かりました。全員が下車して5列に並ばされ、たいまつを持っているロシア人を先頭に歩き出しました。真っ暗で何も見えません。ただ、山と山の沢に入っていっていることだけは確かでした。前列の方から伝達が入って、我々はこの山の中で銃殺されつるというものでした。本当にこの事が嘘であってほしいと思いながら歩きました。20分ほど歩くと山と山の開けた所に建物がありました。それは以前ロシア人の囚人が使用していた収容所ということでした。有刺鉄線が張り巡らされています。各大隊毎にその収容所に入れさせられました。
空腹と疲れでウトウトしますが、体中痒くてどうにもなりません。身動きがとれないほど部屋が狭いので、自由に手を動かすこともできないのです。痒みの原因はシラミと南京虫であります。そうこうしているうちに一箇小隊に出動命令が出ました。
(戦跡 薄れる記憶より)
私たちは収容所から外に出され機材庫の前で全員にスコップ、つるはし、大ハンマーなどを渡されました。整列後、先ほど着いた駅に向かって連れて行かれました。全員無言で草を踏む音だけが冷える夜空に吸い込まれていきます。この時の気温は、氷点下12・13度位だろうと思われます。空腹も限界にきていました。港で渡された時のおにぎり1個以外、腹の中には何も入っていないのです。というか、腹の中には何も入っていません。駅に到着してみると、バラスを一杯積んだ貨車が15車両ほど止まっていました。その貨車の前でロシア人が手真似でバラスのおろし方の説明がありました。このバラスを下ろしてしまえば南京虫のいるあの狭いラーゲルでも帰って休むことができると思い、全員で頑張って2時間ほどで終わらせました。
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