その日は、2年生の生徒を連れて、オープンキャンパスに参加することになっていた。
いつもより遅い時間に、のんびり出発の支度をしていると、テレビの星占いが始まる。
「今日の運勢第1位はてんびん座です!」
よしよし、きっと、いいことあるぞ。
星占いの通り、生徒の遅刻や欠席もなく、オープンキャンパスは昼過ぎに終了した。
「先生、さよ~なら~」
「はい、気をつけて帰ってね」
このあと授業はないし、急ぎの仕事もない。時計を見ると、まだ12時半ではないか。たまには、午後休暇をとるのも悪くない。
「よし、まずはランチだ」
せっかく渋谷に来たのだから、東急に行こう。ちょうど、パリ祭というイベント開催中で、美味しそうなプレートが私を待っている。
「甘いものも解禁しちゃえ」
休暇をとった解放感から食欲も上向きだ。食後はプティガトーも追加した。
「いやあ、極楽極楽。やっぱり1位の星座は違うわね」
優越感に浸って店を出る。お次は映画館だ。メルギブファンとしては、公開中の映画「ハクソー・リッジ」を見逃すわけにいかない。
すでに公開3週目に突入したので、上映回数が減った。興行成績がイマイチなのだろうと、勝手にスカスカの劇場を予想していたが、館内はほぼ満席である。レディースデーでもサービスデーでもないから、ちょっとうれしい。
あらすじを紹介したい。ヴァージニア州出身のデズモンド・ドスは、第二次世界大戦で志願兵となるが、信仰上の理由から銃を持とうとしない。上官に叱責され、仲間の隊員から嫌がらせを受けても、決して信念を曲げることはなかった。
ある夜、デズモンドは就寝中に襲われる。デズモンドが銃を持たないことで、連帯責任を負わされた隊員が、長距離を走らされたことへの報復だった。ベッドごとひっくり返され、数人から殴る蹴るの暴行を受けた。暴力的な場面では、見ている側も力が入る。
「ん?」
異変はそのとき始まった。私のお腹の中でも、何かが暴れ出しそうな予兆がある。朝、ちゃんとトイレをすませたのに……。うごめく腹部に気づき、眉毛がハの字になったが、しばらく耐えていると落ち着いてきた。やり過ごせたかと、大きく息を吐いた。
おそらく、調子に乗って、高カロリーのものを食べすぎた報いであろう。グラスシャンパーニュも2杯飲んだし。この映画は139分と長く、腕時計に目をやると、あと1時間以上もある。はたして、最後まで持つかと不安になった。
スクリーンでは、いよいよデズモンドが沖縄に上陸し、戦いに参加する場面になっていた。ハクソー・リッジと呼ばれる崖を登った先には、たくさんの遺体が散乱している。砂にまみれて横たわりネズミに食われている者、内臓をはみ出させて息絶えた者、ただの肉片になってしまった者など、とても平常心では見られず、体がこわばった。
「あ」
いかん、またお腹の中で殴る蹴るが再開したではないか。今度はさっきより激しい。集団ではないが、2人がかりで暴行を受けているようなツラさである。嵐が通り過ぎるのを待とうとしたら、額が汗ばんできた。冷房は十分利いているのに困ったことだ。
デズモンドは、両足を腿から吹き飛ばされ、苦し気なうめき声を上げている負傷兵の手当てを始めた。足を失う痛みに比べたら、こんな腹痛、どうってこたあない。辛抱、我慢、とヘソのあたりに言い聞かせたが、一向に効き目が感じられない。
「よし、切羽詰まる前にトイレに行こう」と決心し、戦いがひと段落した場面で席を立った。一部、見られなくなるのは残念だが、苦しい思いをしてまで頑張る必要はない。もちろん、これはやせ我慢で、本音としては「腹痛に負けたダメなヤツ……」と落ち込んでいたのだが。
数分後、無事、用を足して劇場に戻る。でも、通路側ではないので、人の目の前を通行する迷惑を考えた。結局、出入口付近で鑑賞することにする。残り時間はあと40分。亡霊のように、暗闇に潜んでジイッとスクリーンを眺めた。どう見ても怪しいヤツである。どこが1位の星座なのかと苦笑しつつも、腹痛から逃れた喜びの方が大きくて、すんなりストーリーに戻っていかれた。
デズモンドは、敵・味方の区別なく、負傷兵を助け続けた。自らの危険を顧みず、最後まで武器をとらず、信念に従って戦ったのだ。腹部の爽快感と合わせて、鑑賞後は心の中にそよ風が吹いてきた。すごい人間がいたものだ。私はデズモンドを尊敬する。
本日の教訓。
長い映画を見る前に、お腹がビックリするような食事をしてはいけない。粗食に徹するべし。
喉元過ぎれば熱さを忘れるものである。お腹の痛みは記憶に焼き付けておこう。
↑
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※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
いつもより遅い時間に、のんびり出発の支度をしていると、テレビの星占いが始まる。
「今日の運勢第1位はてんびん座です!」
よしよし、きっと、いいことあるぞ。
星占いの通り、生徒の遅刻や欠席もなく、オープンキャンパスは昼過ぎに終了した。
「先生、さよ~なら~」
「はい、気をつけて帰ってね」
このあと授業はないし、急ぎの仕事もない。時計を見ると、まだ12時半ではないか。たまには、午後休暇をとるのも悪くない。
「よし、まずはランチだ」
せっかく渋谷に来たのだから、東急に行こう。ちょうど、パリ祭というイベント開催中で、美味しそうなプレートが私を待っている。
「甘いものも解禁しちゃえ」
休暇をとった解放感から食欲も上向きだ。食後はプティガトーも追加した。
「いやあ、極楽極楽。やっぱり1位の星座は違うわね」
優越感に浸って店を出る。お次は映画館だ。メルギブファンとしては、公開中の映画「ハクソー・リッジ」を見逃すわけにいかない。
すでに公開3週目に突入したので、上映回数が減った。興行成績がイマイチなのだろうと、勝手にスカスカの劇場を予想していたが、館内はほぼ満席である。レディースデーでもサービスデーでもないから、ちょっとうれしい。
あらすじを紹介したい。ヴァージニア州出身のデズモンド・ドスは、第二次世界大戦で志願兵となるが、信仰上の理由から銃を持とうとしない。上官に叱責され、仲間の隊員から嫌がらせを受けても、決して信念を曲げることはなかった。
ある夜、デズモンドは就寝中に襲われる。デズモンドが銃を持たないことで、連帯責任を負わされた隊員が、長距離を走らされたことへの報復だった。ベッドごとひっくり返され、数人から殴る蹴るの暴行を受けた。暴力的な場面では、見ている側も力が入る。
「ん?」
異変はそのとき始まった。私のお腹の中でも、何かが暴れ出しそうな予兆がある。朝、ちゃんとトイレをすませたのに……。うごめく腹部に気づき、眉毛がハの字になったが、しばらく耐えていると落ち着いてきた。やり過ごせたかと、大きく息を吐いた。
おそらく、調子に乗って、高カロリーのものを食べすぎた報いであろう。グラスシャンパーニュも2杯飲んだし。この映画は139分と長く、腕時計に目をやると、あと1時間以上もある。はたして、最後まで持つかと不安になった。
スクリーンでは、いよいよデズモンドが沖縄に上陸し、戦いに参加する場面になっていた。ハクソー・リッジと呼ばれる崖を登った先には、たくさんの遺体が散乱している。砂にまみれて横たわりネズミに食われている者、内臓をはみ出させて息絶えた者、ただの肉片になってしまった者など、とても平常心では見られず、体がこわばった。
「あ」
いかん、またお腹の中で殴る蹴るが再開したではないか。今度はさっきより激しい。集団ではないが、2人がかりで暴行を受けているようなツラさである。嵐が通り過ぎるのを待とうとしたら、額が汗ばんできた。冷房は十分利いているのに困ったことだ。
デズモンドは、両足を腿から吹き飛ばされ、苦し気なうめき声を上げている負傷兵の手当てを始めた。足を失う痛みに比べたら、こんな腹痛、どうってこたあない。辛抱、我慢、とヘソのあたりに言い聞かせたが、一向に効き目が感じられない。
「よし、切羽詰まる前にトイレに行こう」と決心し、戦いがひと段落した場面で席を立った。一部、見られなくなるのは残念だが、苦しい思いをしてまで頑張る必要はない。もちろん、これはやせ我慢で、本音としては「腹痛に負けたダメなヤツ……」と落ち込んでいたのだが。
数分後、無事、用を足して劇場に戻る。でも、通路側ではないので、人の目の前を通行する迷惑を考えた。結局、出入口付近で鑑賞することにする。残り時間はあと40分。亡霊のように、暗闇に潜んでジイッとスクリーンを眺めた。どう見ても怪しいヤツである。どこが1位の星座なのかと苦笑しつつも、腹痛から逃れた喜びの方が大きくて、すんなりストーリーに戻っていかれた。
デズモンドは、敵・味方の区別なく、負傷兵を助け続けた。自らの危険を顧みず、最後まで武器をとらず、信念に従って戦ったのだ。腹部の爽快感と合わせて、鑑賞後は心の中にそよ風が吹いてきた。すごい人間がいたものだ。私はデズモンドを尊敬する。
本日の教訓。
長い映画を見る前に、お腹がビックリするような食事をしてはいけない。粗食に徹するべし。
喉元過ぎれば熱さを忘れるものである。お腹の痛みは記憶に焼き付けておこう。
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「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
私もスイーツが主犯だと思っています。
シャンパーニュも共犯かな。
プレート自体にも小さなデザートがついていました。
それで満足すれば、トイレ事件は起きなかったことでしょう(笑)
日頃節制しているので、どこかで反動が出るものなのかしら。
年のせいか、いろいろな面で我慢ができなくなりました。
おもらしだけは避けたいです…。
崖を登るシーンだったから良かったのかな、下るシーンだったら勢いよくて…ヾ( ̄o ̄;)オイオイ
何人がかりのボコボコは分かりやすい比喩でした。
仏桑花の丘?に再びお腹の戦争が起こらないことを願います~
このところ、本当にやることがなくて、忙しいHikariさんを羨ましく思います。
お互い、ないものを求めていますね
夏休みはひたすら勉強するかなぁ。
今年の夏は、13日休むことにしました。
こんなに楽をしていたら、元には戻れない気がします。
出張が多いと、外食も増えそうですね。
仕事の合間に、せめて美味しいものを召し上がってください。
静かな映画だと、忍びよる睡魔と戦う破目になります。
今回は派手にドンパチやるから、その心配はないと思っていたのに、別の戦いになっちゃいました。
ああ情けなや……。
旧日本軍は沖縄県民にもひどいことをしました。
戦争がなければ、普通の人たちだったのでしょうけどね。
平和が一番です。
昨日は私の作った弁当が傷んでいて、娘が腹痛と戦ったようです。
この時期は食事にも気をつかわないと(汗)
ちょっとうらやましい…と思いつつ読み進めたわけですが…
お腹の中も世の中も、非戦・非暴力がいいです。
学校はもうすぐ夏休みですね~。
ごちそうじゃなくても、満腹で暗闇に長時間座っていたら、
血液は脳じゃなくお腹に集中して寝てしまいそうなので。
その映画のことはネットで目にしました。
逆の立場からの沖縄戦。確かに旧日本軍は共謀で非道なものが多かったのでしょう。
やっぱり、戦争・暴力は絶対反対!
時間的に、星占いは見ないです。
たまたま遅い時間だったから、この日は見られました。
いいことばかりだと思っていたのに、クスン。
沖縄戦を舞台にした映画ですから、日本兵がやたらと凶悪に見えます。
こんなに強かったのか?と疑問に思いました。
パチンコも結構ですが、閉店までいたら体に悪そう。
病み上がりなのでお大事になさってくださいね。
用意周到ですね。
私は滅多に下さないので、今回は不運でした。
でも、今まで運がよかっただけだったのかも。
これからは胃腸ケアをしつつ、映画に臨みたいと思います。
ビールを飲みながら映画鑑賞したことはないなぁ。
おしっこを我慢するのもツラいですからね(笑)
ごめんなさい最下位は蟹座のあなたは
の日はあさの踏み切りがタイミング良く待たずに開いたりツイテいるんですよ~!(笑)
私は朝イチの病院に行き、帰りにパチンコで勝った時によくチネチッタで映画を見ますよ(笑)なので身体のメンテは運次第の為特には気にした事はないなぁ。最近はパチンコ勝ちすぎて閉店までいて映画館か閉まってしまい見ていないなぁ。(笑)面白そうな内容ですね。
朝の映画なら前の日の深酒は止めて、昼の映画なら観賞後の一杯を楽しみに我慢します~(あれ?どっちも同じか~)
私は上映中にビールが飲める人達が羨ましい