「黙の世界」折原一

美術専門誌の編集長の水島は、偶然に入った古物商で、『夜光時計』と言う１５号の絵に魅入られて購入する。
作者の「石田黙」には心当たりがなく、インターネットでも、「美術年鑑」を調べても分からなかった。
しかし、ネットオークションで、石田黙の作品が出品されているのを見つけ、競り落とす。
ますます、石田黙に魅入られるが、情報はない。しかし、オークションには時々登場する。
自分が調べたよりもっと昔の「美術年鑑」に石田黙が載っているのを部下が見つけ、少しずつ石田黙の事が分かって来る。
そして、オークションをきっかけに、三田村裕子と知り合う。
裕子は父親が石田黙の作品を所蔵していて、黙の作品に触れて育っていた。そして、行方不明になっている、兄の黙示を探していた。黙示も、石田黙に影響され同じ画風の画家だったが、酷評で潰されていた。
石田黙を捜すうちに、水島は自分の身近に関わりのある人達が何人もいる事に気が付く。
そして、その一人の評論家に、石田黙の個展の知らせが届く。
石田黙をめぐる物語は、意外な方向へ進んでいく。


石田黙は実在の画家で、作者の折原さんがたくさん所有しているとの事だ。
表紙や、中にも黙の作品が多く挿入されているので、作品を通して伝わってくる物も多い。（『被告Ａ』『叔母殺人事件』の表紙にも使われている）
黒を基調にした作品で、好きかと言われたら考えてしまうが、インパクトは大きく、気になって何度も目を向けてしまう作品。
そして、小説の中では物語と絡んで、何を表して描いているのかのを、説明しいてくれているので、とても興味深いし、インパクトもより強くなる。
今までの折原さんの作品と少し違って、わりとストレートに話が進んで行く。
「石田黙」捜しが面白いし、水島が魅せられて、のめり込んで行く様子がとてもリアルに伝わってくる。
これは、折原さん自身の事が入っているのかも知れない。
最後の方に、折原さんらしいミステリアスな世界があるが、その前にある石田黙の事の方が強烈で印象に残る作品だ。