前回(→こちら)に続いて、奥さんが美人な人のお話。
それが元阪神の矢野選手のように、こちらがファンの人だったりすると、話がややこしい。
「矢野、たのむ、打ってくれ! でも、嫁が美人……」
「未来の阪神はたのむぞ、矢野監督! でも、奥さんが超キレイな人……」
応援する気持ちと、ねたみそねみがクロスオーバーして、なんともアンビバレントな気持ちになるのだ。
そんな、ファンなのに奥さんが美人で、ねたましい人といえば、矢野選手のほかにもいるわけで、たとえば将棋のプロ棋士である佐藤康光王将。
佐藤王将といえば、羽生善治二冠、森内俊之名人らと同世代、いわゆる将棋界の「黄金世代」をになう一人である。
理論派でクールな羽生や森内とちがって、勢いや意地、独自性を重視する佐藤将棋は、素人が見ていてもおもしろくファンも多い。
特に羽生とのタイトル戦は、対戦成績こそ分が悪いものの、名局と呼ばれる将棋が多いのだ。
そういった熱戦を見せられると、私も応援せざるを得ないが、ここにひとつネックとなることがある。
そう、奥さまの存在だ。
佐藤康光の奥さまは、美人である。
しかも、仕事の面でも優秀な才女であるという。
私も写真を見たが、これがまあ、みなもうらやむ知的美女であった。
そんな佐藤王将の奥さまは、テレビの『情熱大陸』にも少しばかり出演しておられた。
番組で特集されていたのは、佐藤が渡辺明竜王と戦った、竜王戦七番勝負。
下から突き上げてくる若手に、負けるわけにはいかない佐藤が、嘔吐しながら指し続けるという、激闘ぶりが見られた。
極限まで集中した佐藤は目もうつろ。
時に、気持ちを休めるためにトイレに立つのだが、そこでも憔悴のあまりまっすぐ歩くこともできず、まるで泥酔した酔っぱらいのように、フラフラと廊下をさまよい歩く。
あまりの没入ぶりに前も見えないのか、何度も女子トイレに入ろうとしかけてハッとなったりなど、その姿を見ていると、将棋というのは、そこまで自分を追いつめなければ勝てないのかと慄然とし、
「がんばれ、佐藤!」
エールを送るが、次のシーンでは奥さんが、夫のため朝に栄養たっぷりの特製ジュースを作ってあげる、というエピソードが流れたりして、
「ふざけるな佐藤、そのジュースこぼして、奥さんにしかられろ!」
などと、きわめて小さいスケールで、足を引っぱるのに忙しくなるのである。
かように、ファンであるのにねたましいというのは、なんとも因果なことであるよとなげく日々であるが、佐藤王将からすれば全力で「知らんがな」であろう。
これを払拭する、もっとも良い方法というのは、もちろんのこと
「自分も良き妻をもらう」
ということであるが、これに関しては、
「人のパートナーをねたむような男に、決して魅力的な女性は寄って来ない」
という真理もあり、そこに大いなる矛盾がはらんでいるわけで、もうどうしたらいいのやら。