女子テニス界屈指の技巧派 アグニエシュカ・ラドワンスカの魅力

2016年12月24日 | テニス
 アグニエシュカラドワンスカのファンである。
 
 ポーランドテニスプレーヤーであり、2012年ウィンブルドンファイナリスト
 
 世界ランキングの最高は2位で、2011年2015年東レパンパシフィックオープン優勝したことから、日本でも人気が高い選手だ。
 
 愛称は、東レの記者会見で本人が言っていた「アガ」。
 
 スポーツの世界には「技巧派」と呼ばれる選手がいて、私もパワーで押す選手よりも、どちらかといえば組み立てで勝負するプレーヤーが好みだが、彼女のテニスは、とにかく頭がいいのが特徴である。
 
 セレナウィリアムズのビッグサーブや、マリアシャラポワの斧でたたききるような重いストロークとは無縁で、サービスもフォアハンドもバックハンドも、一見いたって平凡
 
 一撃でエースをとれるウィニングショットや、さわると手の切れるようなボレーがあるわけでもない。
 
 試合中も、どちらかといえば、起伏なく々と事を進めるタイプの選手である。
 
 ところが、この一見なんの変哲もなさそうな彼女のテニスが、いざ戦ってみると負かしにくいのなんの。
 
 その力の抜けたようなフワッとしたテニスは、そのおだやかな外見とは裏腹に、一度はまると命取りになるアリ地獄
 
 当てるだけに見えるショットが、実にいいところに返る。プレースメントがいい。回転のかけ方が巧みで、スピードはないのに返球がなんとも難しい。
 
 そうやって、とらえどころのないまま、うっかり気を抜くショットを放つと、いつのまにかスルスルとネットに出ていて、そのまましとめられている。
 
 彼女はプロにしては細身であり、パワーにはかなりおとるところはあるが、それを適切な読み判断力でカバーできるのが強みなのだ。
 
 とにかく、アガからポイントを取るのは、けっこうな労力を必要とする。
 
 すごい俊足というわけでもないが、ランニングショットがうまい。これで、簡単にはエースを取らせない。
 
 振られても、かろうじて返球したフォアスライスが計ったように深く返ってくる。バックハンドの、当てるだけで返すカウンターショットや、逃げのロブが抜群にうまい。
 
 読みもすばらしいものがあり、をついて打ったつもりのスマッシュやボレーに対して、一歩も動かないままそこに待ち受け、簡単にパスエースを取ってしまうという光景を何度見たことだろうか。
 
 ディフェンスにすぐれた彼女は、その一方で攻めも、なんとも上手にこなす。
 
 のコートで、低くすべる弾道の球を地面につくほど、ぐっとひざを曲げて打ち返すのはウィンブルドンの名物であり、次々とエースを量産する。
 
 ドロップショットが得意で、丁寧にネット際に落とすのだが、彼女の真骨頂はその一発で決めるのではなくて、それを相手に拾われたとき。
 
 本来なら、ドロップショットは決まればいいが、相手に追いつかれると絶好のチャンスボールになる可能性もある、リスクの高いショットである。
 
 ところがアガの場合それを拾われても、ネットにおびき出された相手に対して様々な選択肢でもって対応できる。
 
 ショットの持ち札の数が、圧倒的なのだ。あとはパスでもロブでも、気分次第選んでで料理してしまえばいい。
 
 野球でいえば、まさに「七色変化球」でもって打者を翻弄することができるから、相手からすると頭をかかえるしかなかろう。
 
 中でも「反則だぞ!」といいたくなるのが、バックハンドフェイントショット。
 
 ストローク戦の中、バックのスライスを打つと見せかけて、そこからドロップショットというのは、よくある戦術だが、アガの場合はもうひとひねりある。
 
 彼女はバックのスライスを打つと見せかけてドロップショット、と見せかけてやっぱりスライス
 
 こういう2段階のフェイクを入れてくるのだ。
 
 これには「落としてくる」とに出たところに、するどい回転のかかったショットが、まるで顔面めがけてかのように飛んでくることとなり、相手はパニックになる。
 
 なんとも、いやらしい手管ではないか。
 
 これでじわじわとポイントを取られる者は、洗面器でゆるやかに煮られるカエルのように、気づかないうちにぬるま湯の中で料理されてしまうのだ。
 
 その真価が、いかんなく発揮されたのは、2015年度の東レ決勝
 
 相手はスイスの新星ベリンダベンチッチ
 
 6月エイゴン国際決勝で負かされた、勢いに乗りまくる18歳だが、苦戦が予想されたこの試合、アガはこれ以上ないくらいに巧みなテニスを見せた。
 
 若さにまかせて勝ちまくっていたべリンダを、大人のテニスで見事に翻弄。
 
 相手のスピードを殺すクレバーなゲームメイキングを駆使し、怖いもの知らずの10代に自分のテニスをさせなかった。
 
 6-26-2というスコア以上にを感じさせた内容で、試合途中、どうにもならなくなったべリンダはついに感情を爆発させ泣き出し、コーチである父親と口論を始める始末だった。
 
 これには、まったく惚れさせられたもの。なんという魅せるテニスなのか。
 
 パワーテニスの名のもとに、女子テニスからテクニシャンが駆逐されて久しいが、まさに
 
 
 「昔ヒンギス、今ラドワンスカ」
 
 
 といっていい、すばらしい「魔術師」ぶりだ。
 
 今女子テニス界で、間違いなく「もっとも対戦したくない」選手の一人であるラドワンスカ。
 
 彼女に足りないのは、グランドスラムのタイトルであろう。
 
 2013年ウィンブルドン準決勝で、ザビーネリシツキ相手にファイナル7-9で敗れたのが痛恨であった。
 
 決勝で待っていたのが、セレナでもシャラポワでもなかったことを考えると、ここは相当に大きなチャンスであったが、残念であった。
 
 ただ、彼女の実力をもってすれば、もう何回かはチャンスがあると見る。
 
 現に、2015年度はWTAファイナル優勝し、初のビッグタイトルを手にした。
 
 ぜひ好成績を残したこともあるウィンブルドンか全豪あたりを取って、パワー時代の女子テニスに「技巧派復活」の鐘を鳴らしてほしいものである。
 
 
 
 ■おまけ 負けたけど好勝負だった、2016年東レ準決勝vsウォズニアッキ戦は→こちら
 
 
 
 
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