オーストリアのサンタクロースは、ワイルドでバイオレンスである。
サンタといえば、日本ではヒゲを生やした好々爺といったメージがあるが、これが調べてみると、国によって姿や行動が違っていておもしろい。
厚着をしており、住所はフィンランドということで北欧のイメージが強いが、出身地は東ローマ帝国。
その中の小アジアと呼ばれる地域であり、今でいうトルコなのだ。
サンタクロースの出身地はトルコ。これはまた、ずいぶん日本人のイメージとははなれている。
4世紀の東ローマ帝国ってことは、東方正教会の話だろうから、われわれがキリスト教としてなじんでいるカトリックやプロテスタントとは、ちょっと違うし、今となってはトルコはイスラムの国だから、ますます違和感である。
また、南ドイツやオーストリアのサンタは、日本のようなやさしいおじいさんではなく、クランスプという従者を従え世直しをするという、なかなか社会派な人なんだそうな。
しかも、このクランスプというやつが、見た目、全身黒い羊の毛皮。
顔は面長でツノがあり、耳はと舌は異様に長く、どうひいき目に見ても悪魔以外のなにものでもないというヤツ。
Wikipediaからクランスプの画像。ハンパでなく怖いです。
手にムチも持っており、
「オラオラ悪いヤツはおらへんのか、おったらワシとサンタクロースのアニキが、しばきまわしたるどオラオラ!」
そこいらにいる子供を、バシバシたたいてまわるというのだから、なんともクレイジーではないか。
これは話をおもしろくしようと、誇張しているわけではない。
実際に、オーストリアのクリスマスでは、このサンタ&クランスプのコンビがムチを持って街中を練り歩き、「世直し」と称して、子供をシバきまくっているのだ。
それはもう、泣こうがわめこうがおかまいなし。子供だけではなく、大人も容赦なく
「こいつめ、こいつめ、悪いヤツは全員死刑!」
『デスノート』の夜神月君ばりの成敗にいそしんでいる。日本人的視点から見れば、ただのなまはげだ。
一応、「よい子にする」と約束すればゆるしてくれて、お菓子などもらえるらしいが、散々ムチでしばかれて、泣いてわめいて強制的にいうこと聞かされて、そのあげくにもらえるのがお菓子だけ。
費用対効果を考えれば、あまりに少ない報酬という気もする。子供という職業も、なかなかに大変だ。
だが、そこで心を入れ替えないと、お菓子どころではない、さらにとんでもないことが待っている。
なんと、「悪い子はこうや!」とばかりに、背中にかついでいたずだ袋に入れられて、河に捨てられてしまうのだ!
寒さの厳しいヨーロッパで、そんなことをされたら、まず間違いなく死んでしまう。
ほとんど、スティーブン・キングの書く、ホラーの世界ではないか。
そう、あのサンタクロースがかかげている白い布袋は、プレゼントが入っていると見せかけて、そうではない。
その正体は、中に子供を放りこんで、スリングショットよろしく厳寒の河に投げこみ殺害するための武器だったのだ!
また、サンタによっては、河に投げるどころか、子供を食ってしまうというさらに怖ろしいのもいるという。
あの海原雄山でも手を出さない人肉食い。
人類最大のタブーに踏みこむのは、かの子供たちの味方であるはずの、サンタクロースとは……。
とんでもない話だが、殺人サンタは気にすることなく例の
「ホーホーホー」
という笑い声を上げながら、次なる獲物を探して、
「行け、クランスプ」
カプセル怪獣のごとく、相棒を派遣するのである。
もともとは
「身売りされる娘に、ほどこしをあたえた」
「死刑囚の命を救った」
ということで、聖人としてあつかわれていたはずのニックが、東欧経由でゲルマンの国にわたり、そこで子供殺しの人食いに華麗なるクラスチェンジ。
このあたりは、おそらくゲルマン土着の古代宗教が影響してるんだろうけど、なんにしろ実にワイルドだ。
かくのごとく、クリスマスにしろサンタにしろ、国によってとらえ方は違うわけで、文化の伝搬というのは、おもしろいものだと思うわけである。