全豪オープンの予選を、現地で生観戦したことがある。
などと、唐突に「玄人のテニスファン」アピールをしてみたのは、WOWOWでウィンブルドンの予選を放送すると聞いたからである。
昨今、錦織圭選手を筆頭に、日本人選手の活躍いちじるしい男子テニス界。
こういった盛り上がりを見せると、ありがたいのが、テレビなどで試合をたくさん放送してくれることだ。
グランドスラムのみならず、マスターズ1000にATP500にツアーファイナルにデビスカップなど、実に多彩なチョイス。
もう見る方も大変だが、そこについには「予選」まで参入とあっては、本当にビックラこいた。
いや、ふつう、いくらウィンブルドンといったって、予選は放送しないッスよ。錦織圭も出ないのに。
いよいよディープというか、さすがテニスのWOWOWとおそれいったもの。
こんなもん、だれが見るねんとつっこみたいところだが、まあ私が見るというか、無料放送ありがとう超楽しみと目がハートというか、そういや昔、予選見にオーストラリアまで行ったなあ、とか思い出したのだ。
1998年1月、私はオーストラリアン・オープンを観戦しに、メルボルンに飛んだ。
大会ではピート・サンプラスや、アンドレ・アガシといったスター選手を押さえるのは当然として、もうひとつ、ひそかな楽しみを用意していた。
それが、予選の観戦である。
グランドスラム大会の予選。カタギの世界では存在すら知られていないが、日本人の男子を追いかけるには、デ杯と並ぶ、はずせない大イベント。
なので、常日ごろから興味はあったんだけど、まあさすがにマニアックすぎるかと逡巡していた。
が、『テニスマガジン』で連載していた、とうこくりえさんのマンガで、
「貯金をおろして、デ杯の日本対ウズベキスタンを観にタシケントに飛ぶか、日本男子の応援にUSオープンの予選を選ぶべきか」
という、ディープなうえにもディープすぎる悩みを読んで、「こら負けてられん!」と腹をくくったのだった。
なんの勝ち負けかは不明だが、ともかくも決め手にはなったのだ。
ちなみに、とうこく先生はタシケントを選択。
最終シングルスで金子英樹選手が、ケイレンをおしての勝利で、見事ウズベキスタンを破ったのであった。
話を戻して、予選会場は本戦と同じく、メルボルン・ナショナルテニスセンター。
主にグラウンドスタンドのコートで、本戦の座をかけて、夢いっぱいの若手が、再起をかけるベテランが、必死でボールを追っている。
本戦出場には3連勝が必要。
表には出ないが、選手それぞれにとっては、もちろんのこと大勝負だ。
本戦と予選は天国と地獄の差。いわば、甲子園や国立をかけた地区予選の決勝だ。
これが無料で見られるのだから、なにげにオトクではないか。
まずは日本人選手をチェックするが、ドロー表を見て、ちょっとガッカリすることとなった。
そのころ、『テニスマガジン』で連載していた縁もあって、本村剛一選手を応援していたのだが、残念ながらケガかなにかで今年はエントリーせず。
ならばと、1995年全日本選手権チャンピオンの金子英樹選手にシフトすると、なんと初戦で鈴木貴男選手と痛すぎる同士討ち。
これには思わず天をあおぐ。なんてもったいない……。
しかも、勝った貴男も2回戦で、第1シードのジェローム・ゴルマールに敗れて予選突破はならず。
ちなみに、ジェロームは本戦1回戦で、ティム・ヘンマンを倒す金星をあげているから、予選の層の厚さがわかろうというもの。
この試合は現地で見たけど、ファイナル11-9の激戦であった。
日本人選手は、さらに2人、山本育史選手、茶圓鉄也選手もいたが、ともに1回戦敗退。
まあ、このころの日本男子は、予選抜けることなんてほとんどなかったけどさ……。
日本人選手は残念だったが、予選のいいところは、これからという若手選手や、アジア期待の選手、なかなかテレビ放送されない渋い実力者、なども観ることができること。
特に大阪では、世界スーパージュニアテニスが開催されるので、そこで活躍した選手がエントリーしていたりすると、うれしいもの。
まだジュニア上がりの、セバスチャン・グロージャンとパラドン・スリチャパンがプレーしていた。
他にも、思い出せるところでは、元世界ランキング13位のアンドレイ・チェルカソフがいたかな。
平木理化さんや杉山愛さんといった、日本女子とミックスダブルスで、ビッグタイトルを取るマヘシュ・ブパシ。
前年度本戦ベスト16のジャン・フィリップ・フルーリアン、オランダの巨人ディック・ノーマンに、両サイド両手打ちのジャン・マイケル・ギャンビル。
ダブルスのスペシャリストである、セバスチャン・ラルーとか、サービスエース王のウェイン・アーサーズ。
ネットで当時のドロー表見たら、そのときは目に入ってなかったけど、最高世界3位まで行ったイワン・リュビチッチなんかもいて、こう見るとなかなかなメンツ。
まあそうだよなあ。どんな選手だって、最初は予選からだもんなあ。
思い返してみて、やはり本戦もいいけど、予選だって楽しい。
みなさまも、ぜひウィンブルドンの予選を観戦して将来有望な若手をチェックし、数年後には、
「まあな、あいつも今はがんばってるみたいやけど、オレが育てたようなもんや」
通ぶれるよう、目を凝らしていただきたいものだ。