団鬼六『我、老いてなお快楽を求めん』を読む。
団先生といえば晩年に腎臓を病んだとき、
「人工透析してまで長生きしたくない」
と発表し話題となった。
実際は、その後周囲の強いすすめで、渋々ながら病院に通うこととなったのだが、この本ではその当時の顛末がつづられている。
闘病記ということで、さすがの団さんもしんみりと筆をとったのではと思いきや、これがまあなんとも安気というか、やたらと明るくて笑ってしまったのである。
腎不全を患い、医者からすぐに透析をせよと言明される団さん。のらりくらりとはぐらかしてきたのだが、ついに観念して透析導入に踏み切ることに。
なんでも、慢性腎不全患者は身体障害者一級ということで、それを示すパスがあればバスや電車などが半額になるという。
医療にくわしくない私でも聞いたことがある制度だが、それを聞いた団さんがまず医者にたずねたことは、
「キャバクラも半額になりますか」。
もちろんダメであるが、帰りにキャバクラへ出かけパスを見せ、「半額にしろ」というと、なんと本当に割り引いてくれたという。
シャレ(?)のわかる店もあるものだ。
そんな老いて、ますます盛んな団先生。それから週に3回透析を受けることになるのだが、そのためには体中のあちこちに針を刺さなければならない。
これが最初は痛くて難儀したらしいのだが、だんだんなれてくると、ベテランの看護師さんだと、それほどでもないということが、わかってきた。
だが、見習いの子だとそうもいかないようで、ブスリブスリと打ち間違えを食らって、悲鳴を上げることに。
萌えの世界ではよく「ドジっ子」がかわいいなんていわれるが、気ちがいになんとかのごとく、リアルドジっ子に点滴の針は困りもののようだ。
団さんは師長に、
「チップを払うから、指名制にしてくれ」
これまた、キャバクラのようにしてほしいと懇願するが、それは認められず、今日も悲鳴がこだまする。
痛がる先生には申し訳ないが、まるでコントである。
そうして半年ほどすると痛みも気にならなくなってきて、看護師さんたちともすっかり打ち解けることとなってきたが、そのうち団先生の職業を知った看護師さんが、サインを頼んでくるようになる。
ベッドから動けずヒマな団さんは快く受け、メッセージも求められて揮毫することには、
「愛子ちゃん、やらせて」
「君子ちゃん、やらせて」
私がやれば顔面グーパンチのひとつもいただいたところで、警察に連れて行かれかねないが、そこは職業柄大ウケ。
白衣の天使とイチャイチャ猥談。なんという天国への階段なのか。
セクハラどころか、看護師さんたちはエロ話に大喜びで、団先生原作のポルノ映画についてあれこれ質問して来る。実にお盛んだ。
そのうち、若い医師までが病室をおとずれ、悩み相談をもちかけてくるようになる。
もちろん、内容は男のレゾンデートル、股間の「ゴールデンボーイ」のことで、どうも最近パワーにおとろえが見られてきた。先生、どうすればいいんでしょう。
どうすればいいかって、医者が自らの貧弱な「グレート・ジンバブエ」について、官能作家に相談とは、ますますコントじみている。
バカバカしいような、男としてしんみりするような、団先生も思うところがあったのか、「これを使ってはどうか」と、家に備蓄してあったバイアグラを献上。
そんなことをやっていると、噂を聞いた中年医師までがやってきて、自分にもくれないかと頼んできた。
そんな医師連に団先生は侠気を感じたか、はたまたあきれたのか、ついには「これで試してみろ!」と、自分の著作を読ませて、その効果を観察してみることに。
ED治療にエロ小説!
こうなると、本当にただのシチュエーションコメディーだ。まるで、フランスあたりのエロ喜劇みたいではないか。
こうなってくると、もう団先生大暴れという感じで好き放題。
透析患者は体の筋肉がつることがあり、それを看護師さんにマッサージしてもらうのだが、先生も
「つった、つった、頼む」
看護師さんを呼び出し、「どこがつりましたか」というのに、ニヤリとして
「ここや」
股間を大開脚。
ウブい看護師さんなら声を上げて逃げてしまうらしく、もう大笑いなのだが、それからはいちびって「つった!」というと、「社民党の土井たか子みたいな」年配看護師長がやってくるようになり、今度は氏の方が悲鳴を上げることとなる。
白衣の天使も、負けていないのだ。
こうして団氏は、2011年に亡くなるまで、病院でフリーダムに振る舞って、その天寿をまっとうしたそうだ。
エロあり、笑いありで、男子にとって理想の晩年といえるであろう。
私も人生の最期は、そうありたいものだ。大いに参考にしたい。