流行語大賞といえば思い出すのは、ウェイン・アーサーズである。
というと
「それ、だれやねん」
つっこまれそうであるので、ここに説明しておくと、ウェイン・アーサーズとはオーストラリアのテニス選手。
一時期は、テニス界最速最強といわれたビッグサーブを武器に、レイトン・ヒューイットやパトリック・ラフターらがいた、第何期目かわからないオーストラリア黄金時代、ナショナルチームでも活躍した男だ。
華のあるオージー選手の中で、飛び抜けて見た目が普通とか、自己最高ランキングが44位とか、初優勝までデビューから15年もかかったとか、グランドスラムの最高成績が4回戦とか、実はダブルスのスペシャリストとか。
そんな、私のような「地味な選手萌え」にはたまらない男なのだが、そうでない人からしたら、失礼ながらもう全力で「知らんがな」な選手である。
そんな華なき男のウェイン・アーサーズが、なんでそろそろ年の瀬というこの季節、記憶に残っているのかと問うならば、話は2001年にさかのぼる。
年も押し迫った12月初旬のこと、私は友人クニジマ君と家で一杯やっていた。
テニスファンの彼となれば、当然肴となるのはテニス界のことであり、その日も、
「トーマス・エンクヴィストとウェイン・フェレイラの、どっちを評価すると、より玄人のテニスファンっぽいか」
なんて話で盛り上がっていたのだが、そこで友がこんな声をあげたのだ。
「あ、そういや、今ってデ杯の決勝やってるんちゃう?」
おお、そういえばそんなイベントもあったなあ。たしか今年は、オーストラリアとフランスで決勝やってるんちゃうかったっけ。
パトリック・ラフターとレイトン・ヒューイットの、世界ナンバーワンの2枚看板が売りのオーストラリア。
セバスチャン・グロージャンをエースにそえ、渋い実力者のそろうテニス大国フランス。
これがチーム戦を行うとなれば、盛り上がらないはずがない。
すぐさまパソコンを起動させると、テニス関係のページをめぐってデ杯の情報を仕入れはじめたが、この年の決勝戦は、期待にたがわぬ激戦となっていた。
オーストラリアはラフターとヒューイットが単複戦うが、フランスはグロージャンを中心に、ニコラ・エスクデ、セドリック・ピオリーヌ、ファブリス・サントロという布陣で挑む。
会場はオーストラリアのホーム。全豪オープンが開催されているロッド・レーバー・アリーナに、天然芝を敷いてフランスを迎えうった。
開幕戦で、エスクデがフルセットの末、敵のエースであるヒューイットを破るという金星をあげると、オーストラリアも負けずにラフターがグロージャンをストレートで倒し、エース破り返し。
デ杯の命ともいえるダブルスでは、ピオリーヌ&サントロ組が、ラフター&ヒューイット組のグランドスラム優勝者コンビを粉砕。
さすが、ダブルスはスペシャリストのサントロを擁するフランスが強い。
アウェーの不利さをものともせず、2勝1敗と先に優勝に王手をかける。
ただオーストラリアも、地元の観客の前で、むざむざ敗れるわけにもいかない。
3日目第1試合のエース対決では、ヒューイットがグロージャンを、なんと6-3・6-2・6-3のストレートで一蹴してしまう。
勝負は2勝2敗の最終シングルスにもつれこんだわけだが、試合経過を観ながら私とクニジマ君は、これは恐れていたことになりそうだぞと目を見合わせたのだ。
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