映画秘宝『日常洋画劇場 映画のことはぜんぶTVで学んだ! 』で、あなたもB級映画のとりこに! その2

2017年12月08日 | 映画

 前回(→こちら)に続いて、映画秘宝『日常映画劇場 映画のことはぜんぶTVで学んだ!』のはなし。

 かつて東京12チャンネル(現テレビ東京)にて放送された、名もなきマイナー映画を熱く語るというこの本。

 『メアリと魔法の花』や『相棒』が世間で取り上げられることなど、ものともせず、



 『ペチコート作戦・セクシー潜水艦発進せよ』

 『殺人ドーベルマン・残酷刑務所死の大脱走』



 などを語り倒す本書は「男前」の一言に尽きる。



 『恐怖の宙吊りロープウェー・ジャガーは跳んだ・大統領誘拐計画』

 

 とか、タイトルが大盛りすぎて、どんな映画なのかサッパリわからない。

 ロープウェーと大統領が、どう繋がるのか。ジャガーってだれ? 

 ただひとついえることは、この映画は間違いなく、タイトルが一番おもしろいはず、ということだ。

 こうした作品群だけでも十分魅力的だが、12チャンネルの素晴らしいところは、その編集

 テレビはわざわざ「ノーカット版」と、うたうのが売りになるくらいなので、元来はカット編集はつきもの。

 しかも12チャンネルの場合は放送枠が90分、CMを考慮に入れると正味70分くらいで放送しないといけない。

 そこで披露されるのが、独特の編集技術。

 ストーリーの整合性など気にせず、バッサリやるのは日常茶飯事。

 西部劇で劇中バリバリに生きていた奴が、CM明けにいきなり死んで、いなくなっていたりする。

 もちろん、そこになんの説明もない。視聴者はどーんと置いてけぼりだが、

 

 「とにかく、死んでもういないんだぞ、わかっとけよ!」

 

 ということだけは伝わってくる、有無いわさぬ力業

 そこは各自「想像力でおぎなえ」ということか。なんとも男らしいハサミの入れ方だ。

 編集の暴挙はこんな程度ではおさまらず、『ゾンビ』のラストシーンを改変(!)したり、カットしたところを声優さんにうまくつないでもらって、ほとんど別のストーリーに仕立て上げたり。

 ヒドイのになると、ラストを丸ごとバッサリやって、お話の途中でストンと何のオチもなく、あたかも不条理劇のような終わり方をしたり。

 『惑星ソラリス』を1時間20分にまとめるとか、『探偵スルース』をやはり70分におさめてしまうとか、「そんなご無体な」としかいいようのない荒技も見せてくれる。

 『ソラリス』を80分! そんなん可能なんかいな。どうやって切り貼りするのか、想像もできない。

 『探偵スルース』なんか、ミステリの、それも元は舞台劇だよ。

 シーンのひとつひとつ、小道具の使い方、セリフの一字一句、すべてに意味のある作りこみになっているのだ、それをどうやって再編成するのか。

 このあたりは、謎としか言いようがない。

 そんな、まっとうな映画ファンが見たら



 「バッカモーン! この作品を編集したのはだれだ!」



 海原雄山並みに怒りそうなシロモノでも、ラストのあとすぐ切り替わる

 

 「二光お茶の間ショッピング」

 

 によってすべてが浄化される仕組みになっている。

 どんなバカ映画でも、無茶苦茶な編集でも、「なんやこれはー!」と怒りをあらわにしたところで、


 「はい、今日の商品はこの高枝切り鋏ですね」


 笑顔でいわれると、もう怒る気も失せて、シオシオのパーとなるのである。

 局側の作戦勝ちといえよう。

 私も映画ファンとして、こういうのを読ませられると、



 「もっとB級テレビ映画を見なければ!」



 熱くいきり立ってしまうが、では実際にそのために古いビデオ屋に走るかといえば、そうでもないのであった。
 
 こういうのは、感性がやわらかく、また無駄に時間だけはある、若いときに通過しておくべき道なのである。

 それを大人になってから手を出すと、もう「なんやこの阿呆な映画は!」とか、「金返せ!」とか、

 「オレの2時間……て、編集してるから、まあ実質70分やけど、とにかく貴重な時間返せ!」

 となってしまう。

 歳をとると、酔狂に金と時間をかけるには、分別がつきすぎてしまっている。バカ若いうちにやっておくべきなのだ。

 なので、大人になってのB級映画の楽しみ方は、



 「話のうまい奴に見せて、そのストーリーを解説してもらうこと」



 話術のある友だちを、だまくらかして見させて、

 

 「それが、いかにくだらなかったか」

 

 を熱く語ってもらうのが大人優雅なスタイル。

 幸い私には、バカ映画が好きな上に、それを語らせると浜村淳さんなみにうまい「B級映画講談師」ことウメダ君という友人がいる。

 さっそく彼に『日常映画劇場』を貸して、秋の夜長に『地獄のデビルトラック』について語ってもらうのを、ブランデーでもくゆらしながら堪能したい。



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