海外旅行のボッタクリとの戦い モロッコのマラケシュ編 その2

2018年01月11日 | 海外旅行

 前回(→こちら)の続き。

 マラケシュ屋台で、おつりをガメようとするモロッコ人。

 日本人を完全にカモとしか思っていない、そのナメ切った態度にブチキレた

 私は普段めったに怒らない温厚なタイプだが、一度スイッチが入ると俄然本気になるのである。

 こういったときはどうするのがいいか。

 大きく息を吸って、ドン! と思い切りテーブルをたたきつけ



 「ふざけんな! はよ釣り出さんかい、このアホンダラ! ボケカスひょっとこ!」



 腹の底から大地を揺るがすフルボリュームで、そう怒鳴りつけてやった。

 外国でのケンカのコツは、思いっきり日本語で叫んでやること。

 中途半端に下手な英語などでやってしまうと、どうしてもたどたどしくなってしまい、



 「えーっと、マネーが、チャージが、《足りない》って英語でなんていうんやろ……」



 なんてゴニョゴニョやっているうちに主導権を握られてしまう。

 よほど語学に堪能なら別だが、ここは一番日本語でバシーンと言ってやるのがよい。
 
 要は「怒っている」というパッションさえ伝わればいいのだから。

 それには自分の言葉が一番であり、意味はわからなくても感情はダイレクトに届く。

 思いっきり、地方の人なら方言全開で怒鳴ってやろう。効き目は下手な英語や現地語よりも全然あります。



 「おどれ日本人なめとったら承知せんぞ! どつきまわしたろか、コラァ!」



 ふだんはこういう品のない物言いを良しとしない私であるが、ここは急場である。

 Vシネマで見たヤクザのセリフを参考に、ガンガンかましまくる。下品で結構。どうせ意味などわからないのである。

 そうやってさんざ罵声を浴びせてやると、モロッコ人の顔からニヤニヤ笑いが消えた

 まさか温厚な日本人が、ここまで怒るとは思わなかったのだろう。気圧されるように、10ディラハムが返ってきた。

 だがお釣りの全額は65ディラハムである。走り出した暴走機関車は止まらない。よくいわれることだが、ふだんおとなしい人間を、一度怒らせるとややこしいのだ。



 「あと55や。耳そろえて払え、日本人なめとったら痛い目あわすぞ、このぼけなす!」



 周囲にも聞こえるが、むしろそっちの方が好都合。

 「なんだ、なんだ」という、ざわつきが気になってきたのか、さらにもう10ディラハム返ってきた。そして、声をひそめて「OK?」

 OKのわけねーっつーの! あと45ディラハムだ。こっちに引く意志はないのだから、方針が一貫していて気が楽だ。

 これは交渉ではない、落としどころなどない、無条件降伏イエスかノーかのみなの決戦なのだ。

 再度テーブルをたたいて手を出す。さらに10返ってきた。残り35

 撤退の意志なしの気配は感じているだろうが、向こうの方も10ずつしか返さない辺り業腹だ。

 その小銭への執着っぷりは感心するが、負けてやる気はさらさらない。いや、むしろそのセコさに、ますます気合いが入った。

 そろそろ切り札を出すか。私はバッグの中からあるものを取り出した。

 それは日本でもっとも有名なガイドブック『地球の歩き方』である。

 あのおなじみの黄色い表紙は「あの色を見たら日本人だと思え」と性悪外国人の合い言葉になっているとか。それくらいに知れ渡っている。

 ここからは下手な英語で、



 「これ知ってますね、日本人なら誰でも持ってるガイドブックです。ここに「マラケシュのレストラン」いう項があります。ここにあなたの屋台のこと《この店は悪い店です》と投書するつもりです。そうすれば、日本人は誰もこの店に来なくなるでしょう。それでもいいんなら、35ディラハムはさしあげます」



 そうわざと丁寧に解説してやると、さすがは観光地のど真ん中、『地球の歩き方』とその影響力を知っていたのだろう、モロッコ兄ちゃんはあきらかに狼狽していた。

 現実にトルコなど、ガイドブックに「トルコの店はボッタくる」と、散々書かれて日本人旅行者が激減した時期があった。

 そうつけ加えると、さらに金が返ってきた。20ディラハム。頭が破裂しそうになった。このバカは、この期に及んでまだこんなことをしやがる。

 私は大げさにため息をついて、



 「もうええわ、ポリス呼んでくる」



 これこそまさに最後の切り札である。歩き出そうとしたとたんに、「待て」とあわてて10ディラハムを手渡された。

 ここまで粘られるとは思わなかったのだろう、兄ちゃんはガッカリしたような顔をしていた。

 しかし、戦いはまだ終わっていない



 「あと5ディラハム」

 「あれはサービス料だ」

 「5ディラハム」

 「もう勘弁してくれ」

 「5ディラハム」

 「今は小銭がないんだ」

 「5ディラハムやいうとるやろ!」



 ホンマにどうしょうもない連中である。これまで5ディラハム(50円)程度おつりを「これサービス料ね」とフトコロに入れられたことなど多々あるが、コイツらにはそれをくれてやる気はなかった。

 そうして押し問答をしていると、腰の少し曲がった婆さんが出てきてアラビア語とフランス語で悪態をつき始めた。

 雰囲気からして、ものすごい悪口を言ってるんだろけど、知ったことではない。そもそも意味も分からない。こっちはただひたすら、



 「サンク(5)ディラハム」



 呪文のように唱え続ける。

 これには、これ以上相手にしていては商売あがったりだと判断したのだろう、投げつけるように5ディラハムを返し、「とっとと出て行け」と手を振った。

 やれやれである。勝ったはいいが、ちっとも気持ちはスッキリしない。モロッコ人はこうやって観光客にたかる輩が多いので、この手のトラブルはしょっちゅうであった。非常に賛否わかれる国である。

 おさらいすると、こういったときの対処には、

 

 「クレームは日本語で言うこと」

 「絶対に引かないという姿勢を見せつけること」

 

 要は、なめられてはいけない。主導権を渡してはいけない。相手に「コイツはどうやっても引かへんな」と思わせれば、相手の嫌らしい笑いも引っこむはず。

 もう一度言うが、ボラれるのは別にかまわない。

 けど、なんだろうなあ、日本人なめまくった態度をかくそうともしない下品な小悪党が嫌なんだよなあ。

 ボるならボるで、こっちが気がつかないくらいにスマートにやってくれないものか。そしたらお互い話もスムーズに進むのに。



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