前回(→こちら)に続いて、梅本弘『雪中の奇跡』を読む。
独ソ戦やベトナムではなく、ソ連とフィンランドによる「冬戦争」という、世界史的にはややマニアックな題材をあつかった本書は、良質の戦争ノンフィクションであると同時に、
「がんばれ弱小フィンランド軍」
といった、少年マンガ的ノリを存分に味わえる一冊。
いやもう、ホントにフィンランド軍の貧乏は涙無しでは読めなくて、とにかくやたらと
「この戦場ではソ連兵からうばった○○銃が活躍した」
「ここでは赤軍から捕獲した○○型戦車を使用して防衛に努めた」
みたいなフレーズが頻出する。
それくらいフィンランド軍の装備が貧弱だったわけだが、とにかく自分たちの武器がしょぼい(ヘタするとそれすら足りてない)から、相手のものを、ぶんどって戦うしかない。
このあたりは他人事ではなかったんだよなあ、我が日本軍も。
そういった苦しい事情は、ソ連側にも想像できなかったらしく、あるソ連砲兵将校は
「こっちが一発撃つと、むこうは反射的に撃ち返してくる。ただし、それでお終い。なぜ続けてこないのか不思議だった」
みたいなことを語ったそうだが、そらフィンランド軍も、続けたかったには違いないのだが、なんのことはない。
それ以上の弾がなかったのである。
敵戦車がすぐそこに来ているのに、対戦車砲がないから傍観とか。
フランスからもらった1904年製の骨董品みたいな榴弾砲(駐退器がついていないため、一発撃つごとにゴロゴロ後退してくる)を、なんとその数年後に行われた「継承戦争」でも愛用していたとか。
はたまた虎の子の戦車部隊は砲がついてないとか、ついてても取り付けがいい加減だったため、演習弾しか撃てなかったとか、もうトホホのホトしか言いようのない貧乏ッタレぶり。
そう、この「冬戦争」をあつかった本書は読み応えある戦史であり、世界史的には重要だが日本ではあつかいがマイナーなソ芬戦争を取り上げた出版業界的にも価値のある本だが、それと同時に、
「貧乏でがんばるフィンランド軍萌え本」
これこそが、もっとも大きな売りであろう。
いやあ、彼我の戦力差をものともせず、「一人一殺」どころか
「1人のフィンランド人に、10人のリュッシャ(露助)を!」
てな「一人十殺」の精神で奮闘するフィンランド兵はたいしたもの。
「弱いのが強いのに勝つ」
は戦いにおけるカタルシスのひとつ。
戦車相手に、手製の手投げ弾や火炎瓶で戦うフィンランド軍に燃えろ!
もう、判官贔屓バリバリ。それが存分に味わえる本書は超オススメです。