あのオーストラリアの有名選手を、生で見られなかったのは痛恨であった。
1998年、私はテニスのオーストラリアン・オープンを見に、メルボルンに滞在していた。
スポーツの生観戦は楽しいものだが、それが世界最高峰のグランドスラム大会となれば、その盛り上がりも倍増だ。
初日のセンターコートのチケットはすでに押さえてある。
開幕戦は、ディフェンディング・チャンピオンが務めるのが多くの大会での習わしだが、このときは当時の王者ピート・サンプラスが登場するはずだった。
おお、ピート・サンプラス。
錦織圭選手をきっかけにテニスに興味を持った人にとって「絶対王者」といえばノバク・ジョコビッチ。
「オレはその前からテニス見てたぜ」
と自慢する人にとってはロジャー・フェデラーだろうけど、私の世代だとこれがピートになる。
ライバルであるアンドレ・アガシやマイケル・チャンを退けての、押しも押されぬナンバーワン。
当時でもすでにグランドスラム優勝は10回を数え、まさにテニス界で敵なしの王者として君臨していたのであった。
なもんで、開門前からそれはもう楽しみにしていたのだが、会場に入ってオーダー・オブ・プレーを確認してみると、開幕戦にピートの名前がなかった。
あれ? 印刷ミスかな? なんて思ったものだが、そういうことではないよう。
もしかして、ケガかなにかで欠場したのかとも考えたが、ドローには名前があるようだった。
探してみると、チャンピオンの試合は別のコートだったかナイトセッションだったかに、差し替えになっていた。
ふたたびあれ? であった。
そんな、前年度優勝者が、開幕戦を飾らないなんてことがあるの? それってピートが怒らない?
それとも、1月のメルボルンは死ぬほど(比喩ではなく実際に熱中症で棄権者が出るほど)暑いから、夜の部にしてくれってリクエストしたのかな。
まあ、ピートはどうせ勝つから、いつでも見られるやと切り替えて、じゃあ代わりに代役を務めるのはだれなのかと問うならば、そこにはこんな名前があったのだ。
「Lleyton Hewitt」
この文字を見たときの、私のガッカリ感ときたら!
だれやねん、これ。聞いたこともないし、字も読めんわ! 「ルレイトン・ヘウィット」か?
オーストラリアの選手らしいけど、こんな無名のヤツ連れてくるなら、マイケル・チャンとかおるやろ。
他のトップシードはビヨルクマンとかルゼドスキーとか地味やから、せめて地元ならパトリック・ラフターとかマーク・フィリポーシスでも持って来いや。
やる気あるんか全豪! しかも、相手がチェコのダニエル・バチェクって渋すぎやあ!
もうボヤキまくっていたんだけど、ハイ、ここでもう、私がいかに阿呆であったか、みなさんもおわかりですね。
「Lleyton Hewitt」
テニスファンのみんなで発音してみましょう。リピート、アフター、ミー!
(続く→こちら)