将棋 豊島将之「三冠王」の価値 渡辺明vs佐藤康光 2006年 第19期竜王戦

2019年05月18日 | 将棋・シリーズもの 中編 長編
 将棋の絶妙手は美しい。
 
 前回は羽生善治九段のデビュー時代を紹介したが(→こちら)、今回はそのライバルの将棋を。
 
 

 「三冠王になるチャンスを、生かせなかったが残念でした」。



 『長考力 1000手先を読む技術』という本の中で、そんな内容のことを書いておられたのは、佐藤康光九段であった。

 将棋のプロで「一流棋士」と呼ばれる定義といえば一般的には、


 「A級八段」

 「タイトル獲得」


 このふたつを達成すると、条件を満たしているといえるだろう。

 さらにはNHK杯朝日杯など、全棋士参加棋戦の優勝もあれば文句なしで、そこから数字をどれだけ上乗せできるかが、細かいランキングを決めることになる。

 まあ、だいたいそんなところが基準だと思うが、さらにその上の
 
 
 「超一流」
 
 「Sクラス」
 
 
 となれば、そのラインというのが、昨日新たな名人になった(とよピー、おめでとう!)豊島将之の達成した「三冠王」ということになるのではないか。

 実際、同時に三冠を獲得した棋士は、そう多くなく、歴代でも、



 升田幸三(名人・王将・九段 三冠王で当時の全冠制覇

 大山康晴(名人・十段・王将・王位・棋聖 五冠王で当時の全冠制覇

 中原誠(名人・十段・王位・王将・棋聖 五冠王

 米長邦雄(十段・棋王・王将・棋聖 四冠王

 谷川浩司(竜王・棋聖・王位・王将 四冠王

 羽生善治(竜王・名人・棋聖・王位・王座・棋王・王将 七冠王で当時の全冠制覇

 森内俊之(竜王・名人・王将 三冠王

 渡辺明(竜王・王将・棋王 三冠王
 
 豊島将之(名人・王位・棋聖 三冠王



 この9人しかおらず、いずれを見ても、その時代の最強棋士であったといってもいいメンバーがそろっている。

 佐藤自身もインタビューで「三冠王が目標」と語っていたのだが、その大きなチャンスが2006年度だった。

 本格派から力戦型への棋風チェンジと、自身の円熟味がうまく融合した形になり、その力強い将棋で、ものすごい勝ちっぷりを見せる。

 棋聖戦では、挑戦者決定戦で羽生を破り勢いにのる鈴木大介八段3-0のストレートで退け防衛
 
 通算5期で「永世棋聖」の称号を獲得する。

 トップ棋士選抜のJT杯日本シリーズ決勝では郷田真隆九段NHK杯決勝では森内俊之名人と、同年代のライバルをそれぞれ破って優勝

 中でも特筆すべきは、この年、佐藤康光はなんと


 「タイトル戦5連続挑戦」


 という前人未到の記録を打ち立てることとなる。

 つまりは、この期の佐藤康光は名人戦以外のすべてのタイトル戦に登場したうえに、ビッグトーナメント2個の優勝カップを獲得。

 もちろんのこと最優秀棋士賞と、くわえて升田幸三賞をも受賞し、鬼神のような勝ちっぷりというか、まさに他の棋士を無差別になぎ倒す、絨毯爆撃のようなすさまじさだった。

 ところが、佐藤の『長考力』によると、その大爆発にもかかわらず、このころは非常に苦しい時期だったという。

 それは次々と登場した、タイトル戦の結果だ。

 タイトル戦の挑戦権獲得となれば、並みの棋士なら一生モノの勲章だが、佐藤クラスになると、当然それだけでは満足してもらえない。

 勝ってナンボとなるわけだが、これがきびしい結果となり、
 
 

 王将戦 3-4 羽生善治

 王位戦 2-4 羽生善治

 王座戦 0-3 羽生善治
 
 竜王戦 3-4 渡辺明



 なんと、怒涛の4連敗

 天敵ともいえる羽生善治が君臨する時代となれば、勝利をおさめるのも大変だろうが、それにしてもこれはコタえるだろう。

 最後の棋王戦では森内俊之を3勝2敗で下し、二冠を獲得で最低限の結果は残したが、せっかくの5連続挑戦も全体で1勝4敗となれば、本人的にも納得がいくわけもない。

 少なくとも2勝3敗なら三冠王だっただけに、佐藤としても悔いが残るだろう。

 そこで今回は、佐藤の三冠獲得を阻止した渡辺明竜王の指しまわしを紹介したい。

 2006年の第19期竜王戦
 
 渡辺明竜王と佐藤康光棋聖の対戦は、挑戦者の2連勝第3局をむかえる。

 相矢倉から先手の佐藤が仕掛け、渡辺は△27の「羽生ゾーン」に銀を打って攻め駒を責める。

 むかえたこの局面。後手が△37歩成としたところ。
 
 



 先手の飛車が押さえこまれて、どう攻めを継続するのかむずかしそうだが、ここで佐藤が見せた応手が、まずすごいものだった。
 
 
 
 (続く→こちら
 
 
コメント
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