少女たちの羅針盤 西山朋佳vs里見香奈 2019年 第12期マイナビ女子オープン 第1局

2025年01月21日 | 女流棋士

 いよいよ西山朋佳女流三冠の大一番がせまってきた。
 
 史上初の「女性棋士」なるかということで注目を集める棋士編入試験は、2勝2敗のタイスコアでいよいよ最終戦に突入。
 
 相手は過去に対西山戦を全勝している柵木幹太四段ということで、いろいろと因縁めいているところなどドラマ性も充分である。
 
 とにかくこういうのは、一度「前例」を作っておくのが大事ということで、ぜひとも西山さんには勝ってもらいたい。
 
 かつてテニスの世界では、日本男子選手が松岡修造さん以外、どうしてもトップ100の壁を敗れずに苦しんでいた時期が長かった。
 
 正直、「これもう、無理なんでね?」とすら思ったほどだが、「錦織圭」という男が一瞬で駆け抜けると、その後はあっという間の壁の崩壊が待っていた。
 
 西岡良仁ダニエル太郎杉田祐一添田豪伊藤竜馬など、続々とトップ100に入り、グランドスラム大会にも出場やツアー優勝など新しい時代を作っていた。
 
 これは明らかに「錦織効果」であろう。
 
 その意味ではその前の世代で100位台に乗せていた、鈴木貴男本村剛一金子英樹といった面々も、もしの時代に現役ならば、おそらく100位の壁を突破できていたのではないか。
 
 元『テニスジャーナル』編集長である井山夏生さんも、実力が拮抗するプロの世界で抜け出す(あるいは「くすぶる」のも)「ちょっとしたきっかけ」だとおっしゃっていた。
 
 そう見れば、ここで「西山四段」が誕生するかどうかは、大げさでなく西山さんの人生以上の大きなものを生み出していく可能性が高い。
 
 一度は試験に失敗した里見さんや、やはり奨励会三段まで行った中七海女流三段も、めげずにリトライするかもしれない。
 
 その後には竹内優月6級が続き、まだ名もなき「女性棋士」のたちが、どこかでスタンバっているはずなのだから。
 
 なんだか西山さんにプレッシャーをかけているようだが、「剛腕」の力をもってすれば、それも乗り越えてくれるだろうという期待もこめてのことである。
 
 
 


 2019年の第12期マイナビ女子オープン
 
 西山朋佳女王里見香奈女流四冠との対決は、両者得意の相振り飛車で開幕。
 
 先手西山が動いたところを里見がうまく押さえこみ優位を築く。
 
 西山も負けじと上部を開拓し、あわよくば入玉もというかまえを見せ勝負。
 
 むかえた、この局面。
 
 


 
 
 
 先手は飛車を手持ちにしているのは大きいが、自陣の飛車角に両取りがかかっており、あせらされている。
 
 飛車を逃げるようでは、角を取られるくらいで駒損がヒドイ。
 
 気持ちは▲65飛と切り飛ばして大暴れしたいところだが、果たしてそれで攻めがつながるかは微妙だ。
 
 やはり先手が苦しそうに見えるが、ここで「剛腕」西山がひねり出すパワーがすごかった。
 
 

 


 
 
 

 

 ▲93桂と打つのが、ビックリする手。
 
 ここにでも打ちこんで、バラして最後△93同玉▲91飛とかならわかるが、こんな王手にならない打ちこみなど見たことがない。
 
 もっさりと肩にもたれかかるような不思議な手だが、一応▲81飛までの詰めろではある。
 
 だが、あまりに単調なねらいすぎて、とても効果があるようには思えず、実際里見も△83玉と軽くかわしにかかる。

 

 


 
 そこで後続はあるのか。
 
 この桂打ちも一瞬は詰めろだけど攻めに厚みがなく、次に△74歩とか空気穴を開けられるくらいでも攻め切れない。
 
 いよいよ手がないところだが、西山の底力はハンパではなかった。

 

 

 

 


 
 


 
 
 
 ▲66飛と浮くのが、ジーパン刑事も血まみれで「なんじゃこりゃあ!」と叫ぶ一着。
 
 意味不明というか、まあ飛車を逃げながら角取りに当ててるのはわかるけど、こんな敵のの頭に飛車をぶつけるなど、見たこともない手である。
 
 いい手かどうかはわからないが、西山が「根性」を見せたことは、これでもかと伝わってくる。
 
 里見もビックリしたろうが、△同銀▲同角で取りになっていた飛車角をさばかせたうえに、これが▲84歩からの詰めろ

 それは怖いと判断したか、無視して△59角成
 
 ただ、これが結果的にはよくなかったか、西山はこのタイミングで▲65飛と切る。
 
 この時間差の意味は、すぐにわかる。
 
 里見は玉のフトコロを広げる意図でか△65同桂と取ったが、そこで▲64銀がしぶといからみつき。
 
 


 
 
 
 これで、後手玉が一気にせまくなった。
 
 西山が一拍おいてから飛車を切ったのは、角筋をそらして、敵陣に空間を作るためだった。
 
 △86にいると、守備に利いていてこの手はなかったのだ。
 
 このあたり、里見も意表の勝負手連発にペースを乱されたのかもしれない。
 
 △75歩と逃げ道を開けるが、▲66角の活用がピッタリ。

 

 


 
 取られそうだった飛車角が、こうもきれいにさばけては、まさに「勝ち将棋、のごとし」。
  
 以下、△58馬▲81飛から攻めて、先手の勝ちが決まった。
 
 この逆転で勢いに乗った西山は、3勝1敗で見事に初防衛を飾るのであった。
 
 


(西山の大逆転と言えばこの将棋

(その他の将棋記事はこちらから)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする