「ミス四間飛車」の華麗なるさばき 斎田晴子vs岡崎洋 1994年 第26期新人王戦

2020年08月07日 | 女流棋士

 振り飛車という戦法は楽しい。

 将棋には様々な戦法があり、相居飛車の激しい攻め合いもいいが、アマチュアに人気といえば、やはり圧倒的にこれが振り飛車なのである。

 前回は「加藤一二三名人」が誕生した、中原誠との重厚な「十番勝負」を紹介したが(→こちら)、今回はNHK杯西山朋佳三段(女流三冠)も登場するということで、戦う女性のさわやかなさばきを見ていただきたい。

 


 1994年新人王戦

 岡崎洋四段斎田晴子女流王将の一戦。

 「ミス四間飛車」こと斎田の四間飛車に、岡崎は棒銀から仕掛ける。

 後手は角交換からを作るが、先手もそれを目標に中央から厚みで押そうとして、むかえたこの局面。

 

 

 

 

 ▲75銀と打って、これで飛車が死んでいる。

 このままタダで取られてはいけないが、△62飛△84飛と刺し違えても、▲22飛▲31飛と、先手で打ちこまれるからいけない。

 後手が困っているように見えるが、ここで斎田が会心のさばきを見せる。

 

 

 

 

 △66歩と突くのが、観戦していた米長邦雄九段も感嘆した、すばらしい一着。

 ▲64銀飛車がタダだが、△67歩成▲同金△66歩とたたいて、▲同角△65銀

 

 

 

 これで、見事に攻めが決まっている。

 が逃げれば、△66歩と押さえておしまい。

 とにかく、コビンをにらんだ△34馬の位置エネルギーがすばらしく、斎田が才能を見せた手順だった。

 以下、▲32飛△33桂▲77玉に、いったん△52歩

 ▲57金右の必死のがんばりに、△66銀と取って、▲同金右△39角で、勢い的には振り飛車必勝であろう。

 


 

 岡崎は6筋にカナ駒を置いて懸命にねばるも、斎田も落ち着いて寄せのをしぼり、この局面。

 

 

 

 先手は受けなしだから、後手玉を詰ますしかないが、▲85桂と打っても、△84玉で詰みはない。

 実戦的な考えとしては、なんとか王手しながら、うまく△65を抜く筋があればいいのだが、それもないようだ。

 先手負けだが、おどろいたことに、なんとこの局面で岡崎は46分考えた末に投了したのだ。

 これまた、なかなかにすごい投了図だ。

 いや、先手に勝ちがないのだから、投げるのはおかしくはないけど、それでもなにかありそうな局面なのだ。

 ないにしたって、王手していけば逃げ間違いなどもあるかもしれず、トン死はなくても、なにかアヤシイ手が飛び出さないとも、かぎらないではないか。

 少なくとも私なら、ここで王手ラッシュをかけられたら、生きた心地がしません。

 もちろん、斎田は読み切っているわけだが、「詰みなし」とわかってても、相当怖い思いはさせられるはずだ。

 それを清く投了。なかなかできるものではない。

 もしかしたら、その日の斎田の様子からして、ミスのようなものは望めないと感じたのかもしれない。

 なんにしても強い将棋で、この投了図もふくめて、斎田さんの名局といっていいのではないだろうか。
 

 


 (丸山忠久と先崎学の熱い戦い編に続く→こちら

 (女流棋士の将棋についてはこちら

 (その他の将棋記事についてはこちらからどうぞ)

 

 


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2 コメント

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Unknown (なお)
2020-08-09 14:31:08
こんにちは。いつも有難うございます。女流棋士の待遇って今でも月給なし、社会保険なしなんでしょうか?公益社団法人になったことだし、将棋人気でかなりスポンサーも付いてるわけですから、ちゃんと女流棋士にもお金は分配して欲しいですね。話しは変わりますが藤井新棋聖はホントに強かったですね。教授も書かれておりますがホントに強いライバルが出てこないと現在強い棋士は老いて行く一方なので無人の荒野を行くようになってはつまらないですね。棋士を何十年とやってきてやっと一つのタイトルを取った棋士が高校生の新棋聖に取られようとしています。それが実力と言ってしまえばそれまでですが何故か理不尽なものを感じるのは私だけでしょうか?木村王位にはぜひ4連勝してもらいたいです。
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Unknown (sharon106)
2020-08-09 16:01:03
なおさん、いつもありがとうございます。

女流棋士に関しては、本当にいろいろと考えてあげてほしいですね。

これも女流棋士が大変だった記録係不足の問題や、もっといえば順位戦や三段リーグなど、連盟が先送りにしたり、下位者への負担を前提にしているような問題点こそ、将棋界に注目が集まっている今、外からの視線や意見を意識しながら改善してほしいものです。

ライバルに関しては、これも課題で、ヒーローが出ると盛り上がりますが、勝ちすぎると飽きられるのも事実。
 
こないだ『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』を観たんですが、誰でもいいから、あれくらい意識しあって、シビれるような戦いを見せてほしい!

あと、そのほうが、BL的に女子人気も上がるのではないかと(笑)。

木村王位は大苦戦ですね。昨年、タイトルを取ったときは、まさか藤井聡太が、しかもタイトルホルダーになって出てくるとは思わなかったでしょう。

第2局はおしかったんですが、評価値以上に難しい終盤が続いて、あれを勝ちきるのは至難だ……(見ている方はおもしろかったけど)。

A級も4勝しながら落ちるとか、ちょっと苦難が続く木村王位ですが、ここで終わる男ではないことは確か。

ここは踏ん張って、シリーズを盛り上げてほしいです。結果はどうあれ、ストレート決着は物足りない!
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