振り飛車という戦法は楽しい。
将棋には様々な戦法があり、相居飛車の激しい攻め合いもいいが、アマチュアに人気といえば、やはり圧倒的にこれが振り飛車なのである。
前回は「加藤一二三名人」が誕生した、中原誠との重厚な「十番勝負」を紹介したが(→こちら)、今回はNHK杯に西山朋佳三段(女流三冠)も登場するということで、戦う女性のさわやかなさばきを見ていただきたい。
1994年の新人王戦。
岡崎洋四段と斎田晴子女流王将の一戦。
「ミス四間飛車」こと斎田の四間飛車に、岡崎は棒銀から仕掛ける。
後手は角交換から馬を作るが、先手もそれを目標に中央から厚みで押そうとして、むかえたこの局面。
▲75銀と打って、これで飛車が死んでいる。
このままタダで取られてはいけないが、△62飛や△84飛で金か銀と刺し違えても、▲22飛や▲31飛と、先手で打ちこまれるからいけない。
後手が困っているように見えるが、ここで斎田が会心のさばきを見せる。
△66歩と突くのが、観戦していた米長邦雄九段も感嘆した、すばらしい一着。
▲64銀と飛車がタダだが、△67歩成、▲同金に△66歩とたたいて、▲同角に△65銀。
これで、見事に攻めが決まっている。
角が逃げれば、△66歩と押さえておしまい。
とにかく、コビンをにらんだ△34馬の位置エネルギーがすばらしく、斎田が才能を見せた手順だった。
以下、▲32飛、△33桂、▲77玉に、いったん△52歩。
▲57金右の必死のがんばりに、△66銀と取って、▲同金右に△39角で、勢い的には振り飛車必勝であろう。
岡崎は6筋にカナ駒を置いて懸命にねばるも、斎田も落ち着いて寄せの網をしぼり、この局面。
先手は受けなしだから、後手玉を詰ますしかないが、▲85桂と打っても、△84玉で詰みはない。
実戦的な考えとしては、なんとか王手しながら、うまく△65の金を抜く筋があればいいのだが、それもないようだ。
先手負けだが、おどろいたことに、なんとこの局面で岡崎は46分考えた末に投了したのだ。
これまた、なかなかにすごい投了図だ。
いや、先手に勝ちがないのだから、投げるのはおかしくはないけど、それでもなにかありそうな局面なのだ。
ないにしたって、王手していけば逃げ間違いなどもあるかもしれず、トン死はなくても、なにかアヤシイ手が飛び出さないとも、かぎらないではないか。
少なくとも私なら、ここで王手ラッシュをかけられたら、生きた心地がしません。
もちろん、斎田は読み切っているわけだが、「詰みなし」とわかってても、相当怖い思いはさせられるはずだ。
それを清く投了。なかなかできるものではない。
もしかしたら、その日の斎田の様子からして、ミスのようなものは望めないと感じたのかもしれない。
なんにしても強い将棋で、この投了図もふくめて、斎田さんの名局といっていいのではないだろうか。
(丸山忠久と先崎学の熱い戦い編に続く→こちら)
(女流棋士の将棋についてはこちら)
(その他の将棋記事についてはこちらからどうぞ)
女流棋士に関しては、本当にいろいろと考えてあげてほしいですね。
これも女流棋士が大変だった記録係不足の問題や、もっといえば順位戦や三段リーグなど、連盟が先送りにしたり、下位者への負担を前提にしているような問題点こそ、将棋界に注目が集まっている今、外からの視線や意見を意識しながら改善してほしいものです。
ライバルに関しては、これも課題で、ヒーローが出ると盛り上がりますが、勝ちすぎると飽きられるのも事実。
こないだ『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』を観たんですが、誰でもいいから、あれくらい意識しあって、シビれるような戦いを見せてほしい!
あと、そのほうが、BL的に女子人気も上がるのではないかと(笑)。
木村王位は大苦戦ですね。昨年、タイトルを取ったときは、まさか藤井聡太が、しかもタイトルホルダーになって出てくるとは思わなかったでしょう。
第2局はおしかったんですが、評価値以上に難しい終盤が続いて、あれを勝ちきるのは至難だ……(見ている方はおもしろかったけど)。
A級も4勝しながら落ちるとか、ちょっと苦難が続く木村王位ですが、ここで終わる男ではないことは確か。
ここは踏ん張って、シリーズを盛り上げてほしいです。結果はどうあれ、ストレート決着は物足りない!