「フシアナ・トーキョー! フーゥ!!」
奇声をあげて、思わず踊りだしたくなったのは、
『カンバセーション…盗聴…』
という映画の、2度目を見終えたときのことであった。
『カンバセーション…盗聴…』(以下『盗聴』)はフランシス・フォード・コッポラ監督、ジーン・ハックマン主演のサスペンス映画。
コッポラといえば言うまでもなく
『ゴッドファーザー』
『地獄の黙示録』
で歴史に名を残す大監督だが、両作の合間に撮影されたこの『盗聴』も、地味ながらなかなかの佳作に仕上がっている。
今回は話の都合上、オチにふれないといけないので、ストーリーを全部語っちゃいますが、主人公ジーン・ハックマン演ずるのは盗聴のプロという設定。
浮気調査から産業スパイまで、なんでもござれのスゴ腕で業界内での評価も高いが、本人は自分が盗聴屋のくせに(だから?)他人から盗聴されることを異様に警戒し、プライバシーにふれられることを嫌う。
その様は偏執的ともいえるほど気むずかしく、
「あなたのことを知りたい」
と求める恋人を切り捨て、唯一の趣味は部屋で大音量のジャズを流し、あたかも、そのバンドに参加しているかのようにサックスを吹くこと。
いわば、友達のいない人が、家で「一人カラオケ」をするようなもので、コミュ障というか、仕事以外は精神的なひきこもりともいえる、複雑な人間なのだった。
そんなジーンがある日、大企業の重役から依頼を受ける。
なんてことないカップルのデートを盗み聴きするのだが、そこに不穏な言葉が飛びこんでくる。
どうも、2人がだれかに命をねらわれているとか、そういう内容のようなのだ。
確証こそないが、どうしても気になるジーンは録音テープの提出を拒否する。
彼は過去に自分の盗聴がきっかけとなって、殺人事件を引き起こしてしまったことが、あったから。
ジーン自体に罪はないが、良心の呵責からは逃れられず、大きなトラウマになっているのだ。
ここからジーンは、明らかにトラブルに巻きこまれたようで、
「黙ってテープを渡して、これ以上首をつっこむな」
そう脅されたり、またテープにこだわるあまり、相棒とケンカしてしまったり。
ジーンの仕事ぶりに嫉妬する同業者から、いたずらの盗聴を仕掛けられ激怒したりと、だんだんと精神の安定を失っていく。
ついには罠にかけられ依頼主にテープを奪われてしまうが、真相をどうしてもたしかめたくなったジーンは、盗聴内容をヒントに「現場」となりそうなホテルに潜入することを決意。
そこからはさらに謎が謎を呼び、すべてがジーンの妄想なのかといったサイコ・サスペンス的解釈も残しながら、ヒッチコックをイメージしたようなシーンもあってと、盛りだくさんな内容。
いやー、どうなるねんやろー、とハラハラドキドキしながら、ラストではすべての謎が明かされるわけだが、そのことにショックを受けたジーンに追い打ちをかけるよう、自宅の電話が鳴る。
その声は静かに、
「事件のことはなにもしゃべるな。盗聴してるからな」
命の危険のみならず、自らがもっとも怖れていたプライバシーにまで踏みこまれ、ジーンは半狂乱に。
盗聴器を探し出すべく、家じゅうのものをひっくり返し、テレビも電話もすべて解体。
装飾品を破壊し、壁紙をすべてはがし、床板も全部めくりあげる。
それでも見つけられなかった彼は、ひとり呆然とサキソフォンを吹き続けるのだった……。
……てのが大まかなストーリー。
1回目に見たときは、何にも考えずに
「はー、おもしろかったなー」
と満足してたんだけど、先日2回目の鑑賞をしたとき、ひとつだけ気をつけてみようと、思っていたことがあったのだ。
で、結局ラストで盗聴器はどこに仕掛けられてたの?
最初はどっちでもいいというか、ジーン・ハックマンが自宅の盗聴器を発見できなかったことは、相手側のウソというかハッタリではないにしても(電話の相手に録音された盗聴の内容を流されていた)
「彼ほどのプロが見つけられないほど巧妙にしかけられており、その底知れぬ絶望感を表現している」
くらいに思っていたのだが、今回もう一回見直してみると、割とこの映画は論理的に作ってるような気もするので、もしかしたら、
「盗聴器、ココだよ」
というヒントを作中でさりげなく、示唆しているのではないか、と読んだわけだ。
さすがは私。こういうところにアンテナが反応するとは、まさに映画の玄人である。
で、再見の際ラストを目を皿のようにして見ていたのだが、やはりこれといった答えも見いだせず。
まあ、そこは謎というか、あえて結末を明示しない「開いた物語」みたいなもんかもなあ。
と、おさまっていたのだが、これがとんだF・U・S・I・A・N・A! であったのだから、映画というのは奥深いものである。
(続く)