前回(→こちら)の続き。
「1万円で一発勝負」
マカオのカジノで一勝負するわけだが、ギャンブル素人の私がダラダラとやっても勝ち目はないわけで、問答無用の一回こっきりで挑むことにする。
さて、そう決めたはいいが、なんせこちらは賭けなどジュース代をめぐるジャンケン程度しか知らない、ドのつく素人。
どこをどうやって遊べばいいか、皆目見当もつかない。
ということで、偵察がてら、まずは各テーブルを見学してみることにした。
どういった層の客が、いかなる雰囲気で戦っているのか。それを観光がてら楽しもうということである。
マカオのカジノに関して、事前調査でよく聞いたのは、
「中国の好景気の影響で、大盛り上がりらしいで」。
ちょうど「爆買い」という言葉が流行語になっていたころ、バブルな中国は世界各地で大暴れである。
私もヨーロッパを旅行した際は、チェコのおみやげ物屋などで、高級石鹸を「箱買い」したり、
「この香水、端から端まで全部ちょうだい」
マイケル・ジャクソンのごとき、豪勢なショッピングにはげむ富裕層が席巻していた。
なるほど、勢いのある国はちがうもんだというか、きっとちょっと前の日本人も同じようなことして、歓迎されたり、カモやとほくそまれたりしていたんだろうなあ。
なんて感慨深いものがあったが、それはカジノでも同じようであった。
「賭場の花はバカラ」
という話は各所で聞いていたので、そのテーブルを中心に見て回っていると、これがいるわいるわ、いかにも金持ちそうな中国人のお客があちこちに。
雰囲気としては、背が低くて、お腹が出て、勝っても負けても豪快に笑っている、日本の中小企業の社長さんみたいな気のよさそうなオッチャンが多いのだが、ちょっとばかり様子が違うのはその賭け方。
こういった方々はギャンブルにうといのか、わりとポンポン無造作に賭けていく。
ただ、そこに放り投げられるチップだ。
あたかもゲーセンのメダルゲームのごとき気軽さだが、積み上げられているのは1000ドルのチップなのだ。
1000ドル! 邦貨にして10万円弱。
バイトなら、けっこうシフト入れて、月にやっとかせげるくらいの額。
私のような貧乏人だと、わりと1か月、これで全然生活できますがな。
そんな大金が、まあなんとも簡単にベットされていく。それも、1枚2枚ではない。
朝食の皿にコーンフレークを盛りつけるかのごとく、ざらざらと流れていく。テーブルには山盛りだ。
おいおい、こんな考えなしに賭けてもええんかいな。
それで勝ったら爆笑、負けても「アッハッハ、こら残念」とやっぱり笑っている。
彼ら中国の富裕層にとって、その程度の負けは屁でもないのだ。バブルおそるべし。
他のテーブルでは、カードを引いて、それがディーラーの札より大きい数字か小さい数字かを競うという、これ以上ないシンプルなゲームが行われていたが、そこでもお約束の1000ドルチップがバンバン飛び交う。
おそらくは社長令嬢なのだろう、女子大生くらいのきれいな女の子が勝負している。
ルールがルールだから、進行も早い。ということは、負けるのも早い。
オープン、勝ち、1000ドルチップじゃらじゃら、オープン、負け、1000ドルチップじゃらじゃら、オープン、勝ち、またじゃらじゃら、オープン、負け、じゃらじゃら、負け、じゃらじゃら、負け、じゃらじゃら、負け、負け、負け、じゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃら……。
こういうのは一度負けだすと手が付けられない。テンポが速くて、やめるどころか、呼吸をととのえるヒマもない。
こうして、ディーラーによってとめどなくチップを吸収された女の子は、ざっと見ただけでも日本円で200万はいかれていた。
私だったら200万も負けたら、その場でドラえもんに「地球はかいばくだん」を出してもらうところだが、それでも彼女らはちょっとアツくなった程度で、苦笑しながら席を立って行った。
許容範囲なのだ。
まったくもって、おそるべきは金満家の体力。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」はとっくに終わった一炊の夢だったんだなあと、ちょっとしみじみしたり。
なるほど、ざっと見て雰囲気は多少感じることはできた。あとは自分もこの世界に参入して運試しだ。
勝てば王様負ければ乞食。
金のあるなしは、人を格付けするのにもっともわかりやすい方法である。
果たして私はどちらに転ぶのか、そしてまさに「神様のサイコロ遊び」を実践するような予想外の結末とは?
次回、ついに勝負のとき。
(続く→こちら)