マカオのカジノで大もうけや! ボンクラギャンブラー賽の踊り その4

2020年07月28日 | 海外旅行
 前回(→こちら)の続き。
 
 マカオのカジノで「1万円一発勝負」に挑むことになった私。
 
 前置きは長かったが、いよいよ本番だ。両替場で100ドルチップを手に入れる。
 
 はっきりいって、ちょぼこすぎて恥ずかしい額だが、私にとってはわずか一発の銃弾だ。
 
 泣いても笑っても、これを当てるしかないのである。心の中は映画『ジャッカルの日』並みの緊張感。
 
 ゲームは様子見で場内を回っていたときに、アタリをつけてある。
 
 ずばり「大小」だ。
 
 ルールは簡単。サイコロを3つ振って、3から10が「小」11から18は「大」。
 
 このどちらかに賭けるだけ。
 
 あとはゾロ目に関して細かくあるが、基本は「大か、小か」の2択。シンプルなことこの上ないゲームだ。
 
 素人の私に、ブラックジャックやルーレットのかけ引きなど無理だし、ディーラーとのやりとりもわずらわしい。
 
 そこで、一瞬で決まる「大小」で勝負。沢木耕太郎さんの『深夜特急』を軽く50回は読み返している自分としても、望むところである。
 
 まあ、これだと当たっても最初は2倍にしかならないが、初カジノで勝てれば額などよりも勢いが出るはずだ。
 
 そこからは、どんどん倍々ゲームで賭けて行って、1時間後には人生の勝者である。者どもよ、頭が高いぞ。
 
 選んだテーブルは、私とあと中国系のおばさんと、おじいさんがいた。
 
 見た感じ、どちらも一進一退だが、そのせいか顔はけわしい。
 
 おばさんは慎重に賭ける場所を吟味し、時には「見」も入れてメリハリをつけている。
 
 一方、おじいさんの方は勢い重視のオラオラ系だ。
 
 バンバン賭けて、当たれば快哉をあげ、負ければ天をあおいで呪詛の言葉を吐く。わかりやすいことこのうえない。
 
 ただ、全体的に見て、2人とも少しずつ負けがち。1勝2敗くらいのペースか。
 
 ジワジワと行かれている印象だ。
 
 おもしろいのは、おじいさんのほう。少し負けがこんで、3連敗もすると「アカン、こうなったらヤケクソやー」(言葉はわからないが、間違いなくこんなことを言っているは)の雄たけびとともに、ゾロ目に賭ける。
 
 特に目が出る要素もなさそうだが、連敗後はかならずゾロ目。
 
 で、また、やられる。「ぎゃああああああ!!!!」という情けない声。でもって、また地味に大か小かに賭けだす。
 
 どうも、おじいさんにとっての、「負けてる時の景気づけ」のイベントらしい。
 
 ちまちま負けてたまったストレスを、大負けすることによって晴らすみたいな。
 
 結果的には、負けを塗り重ねているだけなんだけど、大敗によりクールダウンの効果はあるらしい。
 
 ともかくも、それで一息つくというか。なんにしても、豪快なやり方ではある。
 
 そのやりとりがおもしろくて、ついこのテーブルに決めてしまったのだ。
 
 よっしゃ、行くで! スタートは100ドルチップだが、この一歩は人類にとってはどうでもよいけど、私にとっての偉大な飛躍であると、アームストロング船長も別に語ってないけど、とにかく一歩だ。
 
 横ではおばさんが「見」を選んでいた。おじいさんはまた負けて、くやしそうに髪をかきむしっている。
 
 私はどうする。人生の勝者か、からっけつか。
 
 大か、それとも小か。
 
 迷っていては勢いを失う。ええい、ままよと「大」にチップを置いた。
 
 それを見たおじさんが、「若いのには負けんぞ!」とばかりに、今までよりも2倍以上のチップをつかむと、なんと「ゾロ目」に置いた。
 
 出れば36倍だが、はっきりいって無謀な勝負だ。どうも、飛び入りの私にムキになってペースを乱したらしい。
 
 こういうのは、ヤケになると負けなのだ。一発の魅力よりも、コツコツと積み重ねるほうが、結果的には勝つようにできている。ウサギとカメと同じだ。
 
 私は勝利を確信した。見よ、この落ち着きを、この冷静さを。
 
 隣でヤケのヤンパチになって自爆したじいさんとくらべて、なんというクレバーな動きなのか。まさに勝者のたたずまいである。
 
 ディーラーがボタンを押す。ダイスが踊りだす。来い、大! 大、大、大、大、大……。
 
 万力のごとく握りしめられる両のこぶし。栄光をかけた一回勝負。果たして賽の目は……。
 
 勝負とふたを開けると、そこには賽の代わりに冠かぶって笏をもって天神さんの格好をした狸……ではなく、1個目の賽「3」、2個目の賽「3」。
 
 そして3個目の賽の目は……。
 
 なんと「3」!
 
 3、3、3、見事なゾロ目の完成!
 
 この瞬間、「見」のおばさんが悲鳴を上げた。
 
 おじいさんは一瞬「は?」という目で静止した後、カジノの屋根をも震わす大声で、
 
 「よーっしゃあああああああああ!!!!!!」
 
 そして私は、「はわわわわああ」と、世にも情けない声とともに、ヘナヘナーとイスに座りこんでしまったのであった。
 
 はじめてのカジノで、初めての大小で、一回こっきりの勝負で、よりにもよってゾロ目が出るかと。
 
 確率は、計算しなくてもわかる136分の1。それがここで発動。しかも負け。
 
 おまけに、それまで連敗で、ここでも私の参入でペースを乱しゾロ目に自爆したはずのじいさんが大もうけ。
 
 なんてこったい!
 
 いや、もともと勝つ気も大してなかったけど、なんか、こういうやられかただと妙にショックだ。
 
 なんというのか、すげー引きずる負け方といいますか。
 
 まあ「ネタ的には最高」とは言えるけど、同時に
 
 「話ができすぎてて【作ってる】と疑われそう」
 
 でもあり微妙である。というか、ジイサンのあんなガッツポーズ見せられたら、すげえうらやましいよ!
 
 こうして私の初カジノは一敗地にまみれた。しかも、これ以上ない劇的、かつマヌケな形で。
 
 たった1万円なのに、尻の毛まで抜かれた気がしてならず、すっかり負け犬になりくさった私は、
 
 「今日はこれくらいにしといたるわ」
 
 受験時に白紙答案を余儀なくされた中島らもさんのごとく、吉本新喜劇の捨て台詞を吐いて貴重品入れであるガチャピン巾着を手に取ると、そのまま静かにカジノをあとにしたのであった。
 
 
 
 

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