「えーと、それではぼくたちは怪獣を探しに行こうと思ってます」。
なんて語りはじめる高野秀行さんがおもしろい。
高野秀行といえば、読書好きの間では知る人ぞ知る「すべり知らず」の人で、とにかく出る本出る本ハズレなしの実力者。
その力量とくらべてややマイナーな存在であったのは不思議であったが、『謎の独立国家ソマリランド』で第35回講談社ノンフィクション賞受賞するなど、ようやっと世間にも評価され出してファンにはうれしい限り。これからも活躍が期待されるところだ。
そんなアベレージの高い作家である高野さんでおすすめといえば、まず『アヘン王国潜入記』。
ビルマ北部に、俗に「ゴールデン・トライアングル」と呼ばれるアジア、いやさ世界最大規模ともいえる麻薬生産地が存在する。
「辺境ライター」である高野さんは、その中枢を担うワ州に潜入。麻薬ビジネスの知られざる世界の実態をレポートする。という、著者の代表作ともいえる作品である。
というと、ずいぶんハードというか、「闇の世界にメスを入れる」的ドキュメンタリーを想像するかもしれないが、そこはあっさりとそうならないところが高野秀行のいいところ。
麻薬ビジネスの暗部どころか、居候(!)から取材を展開した高野さんは現地の人たちと一緒にケシの実を栽培し、アヘンを作り、自分も吸ってみて、そのままアヘン中毒になったそうだ。
なったそうだ、と言い切られても困るだろうが、これが本当になったのだから仕方がない。
麻薬地帯に取材に行って、自らがアヘン中毒。ミイラ取りがミイラというか、そんなんでええんかいというか、無茶苦茶な話ではないかといえば、そう、無茶苦茶な話なのである。
私は高野さんのファンで、出ている本はほぼほぼ読んでいるが、この人のやることはたいていがおかしいのである。
『幻獣ムベンベを追え』では、早稲田大学探検部を引き連れてコンゴの山奥に怪獣モケーレ・ムベンベを探しに行くし、アマゾン川を川下りすれば、出てくる人物は怪しい呪術師やコカインの密売人、コロンビアでは幻の幻覚剤を試してラリラリになり、ときには野人を捜しに中国へ。
はちゃめちゃな冒険で世界を駆けめぐり、さぞや行動的で破天荒かと思いきや、日本にいるときは三畳一間のアパートで「動くと腹が減るので」と、ひたすらゴロゴロ眠る日々。
そこでもヒマにあかしてUFOを探しに行ったり、自家製ドラッグでトリップしたり、野球ファンの盲目のスーダン人(!)と野球観戦したり、アルバイトで
「三味線を弾きながらタロットをする」
という意味不明の占い師になったりと、もう百花繚乱というか、全体的に「無茶が渋滞している」状態。
いったいどんなポリシーでもって、こんなにもハチャメチャなのかといえば、おそらくは大槻ケンヂさんがあとがきで言っている通り、
「きっと、この人はなにも考えていないのだろう」
高野さんの本は、このようにそこかしこぶっ飛んでいるのであるが、氏のすごいところは、そんなパワフルな冒険に出かけながらも、ちっともそれがパワフルに見えないところ。
どんな危険でムチャとも思えるようなことも、高野さんの飄々たる文体にかかると、ちっともそう感じない。
あたかも、我々が日常で何となく、ちょっと駅前のコンビニ行ってくるわ、というのと同じくらいの温度で、
「ちょっと、西南シルクロード通ってインドに密入国してくるわ」
と旅立ってしまうのである。なんてすばらしい。
高野さんは、かの船戸与一も在籍していたという、泣く子も黙る早稲田大学探検部であるが、そのワイルドさと裏腹であるはずのボンクラさが絶妙にブレンドして、実にいい味を出しているのだ。
ライターの前川健一氏は、雑誌『旅行人』の対談で、高野本を薦められて、
「オレ、探検部とかのノリって苦手なんだよね……」
とあまり乗り気でなかったが、そこで対談相手の蔵前仁一編集長がフォローを入れることには、
「いや、それはわかるよ。でもね、高野さんの本は全然違うんだ。もっと肩の力が抜けた、文化系の探検なんだよ」。
私の高野評と同じであろう。そう、体育会系でなく、文化系の探検。ハードなんだけど、のほほんとしてて、押しつけがましくない。
そんな軽やかに、やはり高野さんはムチャである。
(続く→こちら)
なんて語りはじめる高野秀行さんがおもしろい。
高野秀行といえば、読書好きの間では知る人ぞ知る「すべり知らず」の人で、とにかく出る本出る本ハズレなしの実力者。
その力量とくらべてややマイナーな存在であったのは不思議であったが、『謎の独立国家ソマリランド』で第35回講談社ノンフィクション賞受賞するなど、ようやっと世間にも評価され出してファンにはうれしい限り。これからも活躍が期待されるところだ。
そんなアベレージの高い作家である高野さんでおすすめといえば、まず『アヘン王国潜入記』。
ビルマ北部に、俗に「ゴールデン・トライアングル」と呼ばれるアジア、いやさ世界最大規模ともいえる麻薬生産地が存在する。
「辺境ライター」である高野さんは、その中枢を担うワ州に潜入。麻薬ビジネスの知られざる世界の実態をレポートする。という、著者の代表作ともいえる作品である。
というと、ずいぶんハードというか、「闇の世界にメスを入れる」的ドキュメンタリーを想像するかもしれないが、そこはあっさりとそうならないところが高野秀行のいいところ。
麻薬ビジネスの暗部どころか、居候(!)から取材を展開した高野さんは現地の人たちと一緒にケシの実を栽培し、アヘンを作り、自分も吸ってみて、そのままアヘン中毒になったそうだ。
なったそうだ、と言い切られても困るだろうが、これが本当になったのだから仕方がない。
麻薬地帯に取材に行って、自らがアヘン中毒。ミイラ取りがミイラというか、そんなんでええんかいというか、無茶苦茶な話ではないかといえば、そう、無茶苦茶な話なのである。
私は高野さんのファンで、出ている本はほぼほぼ読んでいるが、この人のやることはたいていがおかしいのである。
『幻獣ムベンベを追え』では、早稲田大学探検部を引き連れてコンゴの山奥に怪獣モケーレ・ムベンベを探しに行くし、アマゾン川を川下りすれば、出てくる人物は怪しい呪術師やコカインの密売人、コロンビアでは幻の幻覚剤を試してラリラリになり、ときには野人を捜しに中国へ。
はちゃめちゃな冒険で世界を駆けめぐり、さぞや行動的で破天荒かと思いきや、日本にいるときは三畳一間のアパートで「動くと腹が減るので」と、ひたすらゴロゴロ眠る日々。
そこでもヒマにあかしてUFOを探しに行ったり、自家製ドラッグでトリップしたり、野球ファンの盲目のスーダン人(!)と野球観戦したり、アルバイトで
「三味線を弾きながらタロットをする」
という意味不明の占い師になったりと、もう百花繚乱というか、全体的に「無茶が渋滞している」状態。
いったいどんなポリシーでもって、こんなにもハチャメチャなのかといえば、おそらくは大槻ケンヂさんがあとがきで言っている通り、
「きっと、この人はなにも考えていないのだろう」
高野さんの本は、このようにそこかしこぶっ飛んでいるのであるが、氏のすごいところは、そんなパワフルな冒険に出かけながらも、ちっともそれがパワフルに見えないところ。
どんな危険でムチャとも思えるようなことも、高野さんの飄々たる文体にかかると、ちっともそう感じない。
あたかも、我々が日常で何となく、ちょっと駅前のコンビニ行ってくるわ、というのと同じくらいの温度で、
「ちょっと、西南シルクロード通ってインドに密入国してくるわ」
と旅立ってしまうのである。なんてすばらしい。
高野さんは、かの船戸与一も在籍していたという、泣く子も黙る早稲田大学探検部であるが、そのワイルドさと裏腹であるはずのボンクラさが絶妙にブレンドして、実にいい味を出しているのだ。
ライターの前川健一氏は、雑誌『旅行人』の対談で、高野本を薦められて、
「オレ、探検部とかのノリって苦手なんだよね……」
とあまり乗り気でなかったが、そこで対談相手の蔵前仁一編集長がフォローを入れることには、
「いや、それはわかるよ。でもね、高野さんの本は全然違うんだ。もっと肩の力が抜けた、文化系の探検なんだよ」。
私の高野評と同じであろう。そう、体育会系でなく、文化系の探検。ハードなんだけど、のほほんとしてて、押しつけがましくない。
そんな軽やかに、やはり高野さんはムチャである。
(続く→こちら)