「女子高生は深夜ラジオを聴かない」
というのは人類普遍の真理であるため、ボンクラ男子たちは気をつけるように。
子供のころから、テレビよりも、ラジオが好きな男の子であった。
今でもradikoやYouT……ゴホンゴホンなどで
「空気階段の踊り場」
「真空ジェシカのギガラジオ」
「蛙亭のオールナイトニッポンi」
といった番組を楽しんでいるが、どうも、こういうものに親しむのは女子よりも圧倒的に男子が多いらしい。
20代のころ、たまたま女子高生数人とランチをする機会があった。
といっても別に、
「JKと援助交際」
「《靴のにおいを嗅がせて》とお願いするもキモがられ、土下座して懇願するところを動画に取られ、拡散され大恥だけど、それがやってみると至福の体験でまたお願いします」
といった、ふしだらなものではなく(当たり前だ)、当時少し演劇をやっていたため、たまたま高校演劇部の女の子と話す機会があっただけだが、そこである子が、こんなことを言ったのだ。
「わたし、音楽が好きで、ラジオとかよく聞くんですよ」
ラジオ好きの私としては、いいとっかかりであり、
「へーそうなんやー。オレもラジオ好きやねん。どんな番組聴いてるの? 深夜の番組は眠くても生で聴く派? それとも録音とかしてる?」
これに彼女が答えるには、
「いや、特に番組名とかは……FMだから、家で宿題してるときとか、お風呂入ってるときとかに、たまたま流れてるのを聴くだけですけど……」
どうもこのとき、
「ラジオの話や!」
テンションが上がったのが、いけなかったのだろう。
「話噛み合ってないぞ」
直感的に悟ったらしい彼女は、
「録音とか……シャロンさんは、どういうの聴いてるんですか?」
ここで、すれ違いに気づけないのが、私のイカンところ。
「女子高生と趣味が合う!」ということで、舞い上がっていたのだろうか、
「えーとね。まずは『誠のサイキック青年団』。竹内アニキの下ネタのワードセンスは神がかってるよね。
『ヤングタウン』はさんまにダウンタウンに西川のりおに鶴瓶師匠。『サタディ・バチョン』は北村安湖世代ね。
ラジ関でやってた『林原めぐみのハートフルステーション』に、あとは通学路に停まってる軽トラから流れる『ありがとう浜村淳です』で、浜村さんの極右トークを聴くっていうのは関西の【中高生あるある】やよねえ」
一気にまくし立てたわけだが、やけに反応が薄い。
それどころか、彼女らは一様にポカーンとしており、なるほどこれが「ハトマメ」というやつかと勉強になったが、ともかくも話がまったく通じていないことは瞬時に察知した。
彼女らは、わけがわからんとでもいいたげに、
「それ、いっこも知らないんですけど、どこで流れてるんですか?」
そこで堂々と「AMである」と答えると、彼女らは一瞬目を見合わせると、はじけるように爆笑したのだった。
女学生たち曰く、
「AMって、聴いてる人おるんやー」
「うーわ、マジでウケるわ!」
「そんな文化、全然知らんかったです」
「そもそも、AМってなに?」
「そんなん聴いて、もしかしてシャロンさんって、ヤバイ人ですかぁ?」
なんかもう、メチャクチャにバカにしてきたのだ。
男子のノリも、こういうときガサツなものだが、いったん
「コイツは行っていい」
と認定してきた女子高生の残虐さもなかなかである。
そこからはすっかりランチの肴にされ、キャッキャとイジられ、盛り上がられたのだった。
まあ、みんないい子たちだったから、別に悪気はないんだけど(若者のノリだしね)、それにしても女子高生と深夜ラジオの親和性のなさにはビックリだった。
オレがなにをしたんや! ラジオを愛したのが罪だったのか!
てゆうか、今おまえらが食ってるボンゴレとかペペロンチーノは、オレが一部、金を出して食わしたってるんやぞ!
パン工場でマシンみたいにアンパンを箱詰めにして稼いだ、血のウン千円や! 感謝して学校指定の制服姿で、ベリーダンスくらい踊れや!
……とは、もちろん言いませんが、それくらい泡食ったものである。
そこは私も世界がせまいというか、基本的にAMの特に深夜ラジオというのは
「イケてない男子」
という文化圏であることを知らなかったわけだが、それにしてもなかなかなあつかいであった。
それ以降、女子の前でラジオの話はNGにしたのだが、食事のあと「まいった、まいった」と苦笑していると、やはり演劇部のアマガサキ君という男子高生(きっといつも「木の役」しかもらってなさそうな)が、小さな声で、
「シャロンさん、ラジオ好きなんですね。ボクは『ヤンタン』より、『ブンブンリクエスト』派ですケド」
といっても、当時の関西ラジオファン以外はなんのこっちゃだが、要するに今で言う、
「JUNK派か、オールナイト派か」
みたいな話。
そこで意気投合したわれわれは、
「小娘どもに、深夜ラジオの良さはわからんのですよ」
大いに盛り上がったのであるが、まあその姿は今思えば、女子高生に軽くあしらわれても、しょうがないよねえ、キミたち。