前回に続いて、「長塚京子世代」が中心のオタク談義。
特撮にくわしくない友人ワカバヤシ君が、昭和の狂ったエピソードを聞いて、そのあまりのハイセンスな内容に、
「ボクをだまして、からかってるんだろ?」
すっかり疑心暗鬼に。
そりゃまあ、
「ヒーロー番組の主題歌の歌詞に《魔人ドルゲをルーロルロロ》というのがある」
なんて言われても「え? それネタやろ?」としか思いませんわな。
では、まずは登場人物。
1.ベットウ君
後輩。戦隊ヒーロー、アニメ、マンガ、プロレスが得意ジャンル。
好きな理不尽特訓は「片眉を剃って山籠もり」
2.ワカバヤシ君
元関東人。オタクではなく、映画、文学、哲学などにくわしいインテリ。
好きな理不尽特訓は「ピアノのために指の間を切る手術」。
3.カネダ先輩
SF、ミステリ、映画、ゲームなどが専門。
好きな理不尽特訓は「股間のシンボルをビール壜でたたいて鍛える」
4.私
特撮、SF、ミステリ、映画あたりが専門。
好きな理不尽特訓は「日本刀で素振り」
■前回の「全滅MAC」編の続きです。
ベットウ「あとまあ、MACというよりダン隊長とゲンの特訓シーンは忘れられませんね」
私「あー、これはレオを語る上ではずせない」
ワカバヤシ「特訓って、ウルトラマンがなにかを練習するの?」
私「当たり前やん、ヒーローと言えば特訓」
ベットウ「必殺技をマスターするために滝行とか、山籠もりとか、基本でしょ」
ワカバヤシ「基本なんだ」
ベットウ「『帰ってきたウルトラマン』の流星キックも、そうやって生まれたんですから」
私「なんか、山奥に行って、丸太を運んだり」
カネダ「崖をジャンプで飛びこそうとしたり」
ベットウ「なぜか、MATの制服着てやってるんですよね」
私「ジャージかなんかに、着替えたほうがええよな」
怪獣を倒すため特訓にはげむ郷秀樹隊員。意味があるのかどうかは不明。
カネダ「キングザウルス3世のバリアが、上部に利いてないからジャンプで飛び越える練習するねんけど」
ワカバヤシ「でもさあ、人間のときに練習した技とか、変身した後に使えるとか、関係あるの?」
私「特訓は理屈やないから」
ベットウ「特訓はすべてを解決する。人類が特訓さえすれば、地球温暖化は緩和され、砂漠に雨が降り、ウクライナの戦争も終結するんです」
ワカバヤシ「それは、そうなってほしいよ、マジでさ」
ベットウ「でも、その特訓シーンが問題で」
カネダ「なあ。あれはスゴイよな」
私「今風に言えば、【3分でダン隊長が嫌いになる動画】とかタイトルがつくという」
ワカバヤシ「観たいような、観たくないような」
ベットウ「なんたって、まず杖でバシバシなぐってますからね」
ワカバヤシ「なぐるのは、今はムリだね」
ベットウ「昔は全然アリですよ」
ワカバヤシ「正義のヒーローが死にかけるって、ヤバいじゃん」
ベットウ「いや、レオがじゃなくて、役者さんがです」
ワカバヤシ「え? 物語上の死じゃなくて、本当に演じてた人がガチで死にかけたってこと?」
カネダ「そうそう。レオの人間体を演じた真夏竜さんが、その無茶なロケで肺炎になって、あわやという」
この撮影のあと、肺炎で死にかけたそうです。この時代、みんなイカれてました。
ちなみに真夏さんは『タロウ』の和気あいあいとした現場を見て、そのイメージで撮影に行ったらこの有様で「話がちがう!」と叫んだとか。
ワカバヤシ「やってんなあ」
ベットウ「ヘンな機械と戦わされたり」
カネダ「丸太をブンブン投げてこられたり」
ワカバヤシ「よしもとの若手芸人より過酷なロケじゃん」
私「【意味不明な特訓】【理不尽な暴力】【非論理的な説教】は昭和ドラマツルギー三種の神器」
ワカバヤシ「『スクールウォーズ』とかのおもしろさは、まさにそういうところにあったよね」
ベットウ「今やったら、ムリですよねー」
私「乃木坂の女の子らも、あの演出家にこんな感じで稽古をつけられてたんやろな」
ワカバヤシ「やってないと思うけど、マインドは近いかもね」
カネダ「まあでも、そのムチャな感じも、そういうもんやと思ってたよな」
私「時代って変わるもんですねえ。ダン隊長も、そんなゲンをメチャクチャに罵倒するとか、今ならアウトでしょ」
カネダ「結構、人格否定的なことも言うしなあ」
ベットウ「マジで、ダン隊長の人間性を疑うんですよ」
私「なんか、ネチネチ言うねん」
カネダ「《おまえは宇宙人だから、地球人の気持ちが分からない》とか、相手が反論できんヤなこと言いよるんよ」
ワカバヤシ「ちょっとヒドイね、その言い草は」
私「人種(?)差別入ってるし」
カネダ「なんか、このときのダン隊長はずーっと不機嫌でピリピリしてて、見ててしんどいのよ」
私「まあ、斎藤美奈子さんも『紅一点論』って本の中で、日本のマンガやアニメの正義の組織は、とんでもないブラックぞろいって書いるし」
ワカバヤシ「まあ、任務が任務だから、多少は仕方ない気もするけどね」
私「ようマックガンで撃たれへんなと思うわ」
カネダ「今がベストでもないんやろうけど、昔が荒かったのは事実よな」
ベットウ「実際、人を言うこと聞かすのは、暴力とか罵倒が一番手っ取り早いですからね」
私「だから、ブラック部活とかブラック企業とか宗教団体は使うよな」
カネダ「一種の洗脳やから。効果あるしな」
ベットウ「そう。【効果がある】のが問題なんですよねー」
私「『冠』って本の中で、オリンピック選手をずーっと怒鳴りつけてる日本人コーチを見て沢木耕太郎が《えーかげんにせーよ》って怒ってたけど、なーんかレオとダン隊長を思い出してさあ」
ワカバヤシ「パワハラ受けてる側が、【私たちのことを想って、やってくれてるんです】とか擁護するケースも多いしね」
ベットウ「でも、今でも、こういうノリの大人いますよ」
カネダ「炎天下で、子供走らせたりするコーチとかなあ」
私「全滅は笑えるけど、そういうのは笑えへんですよね」
ワカバヤシ「いや全滅も、全然笑えないと思うけどね」
(『ウルトラマン80』編に続く)