B面攻撃と駒のマッサージ 丸山忠久vs池田修一 1991年 棋聖戦 羽生善治vs藤井猛 2006年 第65期A級順位戦

2023年12月01日 | 将棋・好手 妙手

 「B面攻撃」を得意とする人というのがいる。

 将棋において相手の総大将であるではなく、攻め駒の方を攻めて、無理攻め指し切りを誘ったり、場合によっては入玉ルートを確保してしまおうという作戦。

 

 「駒のマッサージ」

 「盤を耕す」

 

 なんて言い方もあり、テレビで有名になった桐谷広人七段など、森雞二九段の異名である「終盤の魔術師」をもじって

 

 「終盤のマッサージ師」

 

 と呼ばれたが、これで本当に天下を取ってしまった人が丸山忠久九段であろう。

 


 1991年の棋聖戦。池田修一六段と丸山忠久四段の一戦。

 先手の池田が変則的な出だしを見せたが、そこから双方しっかりと囲う相居飛車

 おたがいに7筋と3筋にを張って、厚みで勝負する形に。

 

 

 


 池田が4筋からを進出させたところ。

 次に▲45歩と打たれるとお終いだが、後手は4筋にが足りず△45歩にも▲同金と取られてしまう。

 かといって△42銀△24角で、銀の退路を確保するだけの手では勝ち目がない。

 どう受けるか注目だが、ここから丸山流のB面攻撃が炸裂する。

 

 

 

 

 

 

 

 △45歩▲同金△同銀▲同飛△38金
 
 かまわず△45歩が意表の手。

 ▲同金から攻め駒をさばかれ、歩切れ△44歩のような手もないので、先手からすればありがたそうな話だが、そこで△38金が当時の丸山将棋

 一瞬は損のようでも、この金で敵の桂香をはらっておけば、これ以上の攻めはなく、また将来、上部脱出でもしたとき役に立ってくるという仕組み。

 まさに「盤を耕す」手だ。

 ただ、それにしたって、すごい手である。

 そりゃ、たしかに桂香を取り切れればいいけど、大事なを投資するから損得は微妙

 なにより先手がここから猛攻をかけてくるのは見え見えで、下手すると僻地に取り残されて「スカタン」になる怖れもある。

 あまりにも無筋で、それこそ将棋教室とかなら先生から

 

 「こういう手は筋が悪くていけませんね」

 

 と言われてしまいそうというか、実際マネしても我々だと勝てないだろうけど、これを勝利につなげてしまうのが丸山忠久という男だった。

 池田は▲36歩から動いていくが、後手も角交換から4筋を押さえ、△29金と首尾よく桂馬をいただくと、これで先手から案外いい攻めがない。

 

  

 

 ▲64歩からやっていくしかないが、好機に△47歩成と、と金を作って、それで先手の飛車をいじめる展開になっては勝負あった。

 以下、大差で丸山が勝ち。

 特異すぎる棋風だが、その強さ自体は相当なものであって、丸山がこの将棋でどこまで上がっていけるかは興味深いところであった。

 その後、公式戦24連勝新人王戦V2全日本プロトーナメント(今の朝日杯)優勝級昇級と着実にキャリアを重ね、ついに名人にまで登り詰めるのである。

 

 続けて、もうひとつ。

 2006年の第65期A級順位戦

 羽生善治三冠藤井猛九段の一戦。

 相穴熊戦になった対決は、序中盤で藤井が駒得に成功した上に、2枚も作って、相当手厚い形に。

 

 

 

 パッと見、完全に押さえこみが決まって、先手はほとんど動かす駒がない。

 どうにも指しようがなく、藤井も必勝を信じていただろうが、次の手がまさかという手だった。

 

 

 

 

 

 ▲23金と打ったのが、当時話題になった有名な手。

 B面攻撃と呼ぶのもはばかられる、「なんじゃこりゃ?」だが、これは本当の本当に意味不明

 いくら、やる手がないとはいえ、こんな最果ての地に貴重なを投入して、どうなるというのだろう。

 しかも、一応の桂取りだって、本譜△54歩で簡単に受かってしまうというのに。

 ところが、これが圧勝ペースだった藤井の頭脳をおかしくさせるのだから、将棋と言うのは本当にメンタルのゲームである。

 羽生は金を使って、2筋3筋をほじくっていき、局面がまぎれたとみるや、ビッグ4▲77にある▲86にあがって、からラッシュ。

 それでも、やはり藤井大量リードは変わらなかったろうが、なぜかというか、不思議としか言いようがないが、いつの間にか逆転

 投了のとき、藤井はふてくされたように、駒台の駒を盤にバラバラと振りまいた。

 まさに、文字通り「駒を投じた」わけで、マナー的にはもちろん良くはないが、こんなもんうっちゃられたら、そりゃそうなる気持ちもわかりますねえ。

 


(丸山による究極のB面「成香冠」はこちら

(やはり羽生による藤井への巧妙な手渡しはこちら

(その他の将棋記事はこちらからどうぞ)

 


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