クレーコートの試合が好きである。
テニスにはコートサーフェスに、いろんな種類があって、芝のウィンブルドンに、ふだんわれわれにもなじみがあるハードコート。
今は見ないが、室内カーペットとか日本にしかないらしい砂入り人工芝のオムニコートなどもあったけど、やはり男ならどーんと赤土のテニスを楽しむべきである。
クレーコートのなにがいいって、まず暑苦しい。
クレーは球速が遅いため、どうしてもラリーが長くなりがちである。
なので、スピードやパワーよりも体力や精神力がより試されるわけだ。
今でも、「クレーキング」ラファエル・ナダルがそうであるように、永遠に終わらない打ち合いを苦にしない、ど根性ガエルが活躍する、その偏りがたまらないのである。
その意味では、本当の楽しさは今よりも、むしろ昔の試合でこそ味わえるというもの。
一時期、あまりに球が遅く、延々と単調なラリーが続くだけの試合が頻出したため、総本山であるローラン・ギャロスをはじめ、クレーの大会の人気が急落したそうな。
そのため、主催者側もボールの圧を調整したりして、なんとかスピーディーな試合展開を作り上げようとした。
また、1997年のローラン・ギャロスを制覇した、ブラジルのグスタボ・クエルテンが、テンポのいい「サンバ・テニス」を披露したこともあって、赤土のテニスも多少は変わっていったようなのである。
私のようなガチのクレーマニアは、華麗な打ち合いもいいが、やはり暑苦しい男たちが、汗だくでフンフン言いながら、ガットが切れるくらいにトップスピンを打ち上げる姿が萌えるわけで、今回はそういう動画を見てみたい。
まず元祖クレーキングと言えばこの人のビヨン・ボルグ。
1981年のローラン・ギャロス決勝、イワン・レンドルとの一戦(→こちら)。
パリで6勝のレジェンドであるビヨンだが、やはりカッコイイ。
映画『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』(超オススメです!)を見ると、現役時代の彼の苦悩が伝わってきて、より思い入れも強くなる。
一方のレンドルは、これが良い感じに地味で、そのコントラストも目を引く。負けるな、イワン。
試合のほうは、これがもう期待通りのスローペースで笑ってしまう。
サーブ&ボレーでチャキチャキとポイントが決まるウィンブルドンとくらべて、同じ星の出来事とは思えない。
ボーっとながめて、気がついたら眠っていたり、それがいい。
クレーと言えば今も昔もスペインが強く、中でもインパクトを残したのが、アルベルト・ベラサテギ。
「エクストリーム・ウェスタン」と呼ばれた、極端に分厚いグリップを駆使して、1994年のローラン・ギャロスで決勝まで上がってきた。
そこで同胞であり、ディフェンディング・チャンピオンでもあったセルジ・ブルゲラに敗れたが、その見た目の濃さも相まって、なかなかにステキである。
ボールの軌道が高いのが、いいんだよなあ(こちら)。しかし、なんて見た目の男くさい戦いなんだ。
あと、クレーのテニスの醍醐味と言えば、攻撃的な選手がその泥沼に飲みこまれるところ。
芝やハードコートなら、弾丸サーブに強烈なストロークにネットダッシュでも見せて、ふつうに勝てそうなところが、これがコートが違うだけで、こんなにも苦しめられるとは。
将棋でいう「後手番」のようなもので、どうしても受け身の戦いを強いられる。
たとえば、1996年のローラン・ギャロス2回戦。
ピート・サンプラスとセルジ・ブルゲラ戦(→こちら)。
クレーを苦手とするピートが、よりにもよって2回戦で優勝2回のセルジと当たるという運のなさ。
ピートはこの年、ベスト4まで行って「ついに優勝あるか?」と期待させたが、この試合をはじめフルセットの連続で疲弊させられ、ガス欠で敗れた。
1995年のデビスカップ準決勝。
ロシア対ドイツ戦の大将戦、アンドレイ・チェスノコフとミヒャエル・シュティヒの一戦(→こちら)。
ウィンブルドン優勝経験もあるシュティヒは、基本的には攻撃型だが、オールラウンドプレーヤーでもあるため、クレーは苦手というほどの印象はない。
実際、翌年のローラン・ギャロスでは決勝まで行っているのだが、この試合ではチェシーの泥臭い、ねばりのテニスに手を焼きまくり。
なんとチェシーは9本ものマッチポイントをしのぎ、ファイナルセット14-12で勝利。
これがクレーやなあとウットリするような試合で、いつままでも観てられるなあ。