閃光! ヴァルキリーズ・ジャベリン 西山朋佳vs里見香奈 2019年 第12期マイナビ女子オープン第2局

2021年03月31日 | 女流棋士

 西山朋佳が、NHK杯出場を決めた。

 先日放送された、将棋NHK杯の出場女流棋士決定戦で、西山朋佳女流三冠(女王・女流王座・女流王将)が、里見香奈女流四冠(清麗・女流名人・女流王位・倉敷藤花)を破って本戦に進出。

 将棋の内容も大激戦で、特に不利と見られたところから見せた、西山のねばりが見どころ十分。

 ▲38桂と埋めたところから、手をつくしてひっくり返したときなど、

 「見たか! これがウチのトモちゃんの二枚腰やで!」

 なんて、テレビの前で大盛り上がり。

 私は西山さんが受けで見せる、独特の腕力の大ファンなのだ(そのひとつが→こちら)。

 もっとも、自分は同時に里見さんのファンでもあるので、どっちかしか出られないということには複雑な思いではあった。

 まあ、そこは同じ大阪人のよしみで、ほとんど誤差の範囲くらい少しばかり、西山さん推しにかたむいたわけだが、ともかくも、これでウチのトモちゃんが(←どの目線でしゃべってるんだ)、またも全国放送に。

 そこで、前回はNHK杯で初優勝した、稲葉陽八段による銀河戦優勝の将棋を紹介したが(→こちら)今回は西山将棋を紹介したい。

 

 2019年の第12期マイナビ女子オープン。

 西山朋佳女王と、里見香奈女流四冠との一戦。

 西山先勝を受けた、5番勝負の第2局は、後手の西山が三間飛車から四間に振り直す形に。

 

 

 里見が中央に、を飛び出していったところ。

 ここからの西山の指し手が、振り飛車党には、非常に参考になるのではないか。

 

 

 

 

 △42角、▲77桂、△54銀、▲44角、△64角、▲22角成、△85歩。

 △42角と引くのが、振り飛車らしい駒繰り。

 △33△64に持って行って▲37飛車のコビンをねらうのは、

 「振り飛車名人

 と呼ばれた大野源一九段や(→その将棋はこちら

 「さばきのアーティスト

 こと久保利明九段が得意とする、カウンターショットの常套手段(その将棋は→こちらから)。

 形勢はまだ難解だが、先手も銀冠の最急所をつかれて、相当にイヤな感じ。

 里見も負けずに、▲32馬△44飛と飛車を追ってから、▲45歩、△同銀、▲同桂、△86歩

 そこで、▲83歩と急所にビンタを喰らわせ、反撃していく。

 

 

 

 玉頭戦は、ひるんだ方が負けるのだ。

 このあたりは、足を止めての打ち合いで、両者の気合がほとばしっている。熱い。

 そこから終盤のたたき合いになって、むかえたこの局面。

 

 

 

 里見が▲85歩と、せまったところ。

 自然なのは△85同桂だが、ここのシャッターが開くと、▲23にあるの利きが、玉頭までビュンと届いてくるのが怖すぎる。

 ▲83歩のタタキなども、きびしく残り、どうするのかと見ていると、ここで西山のキャッチフレーズである「剛腕」が飛び出すのだ。

 

 

 

 

 自陣にかまわず、△88銀不成と取るのが、解説の塚田泰明九段も絶賛した、強気の踏みこみ。

 ▲84歩を取られた形は、場合によっては、いきなり詰まされてもおかしくない危険度だが、これで一手勝てると西山は主張している。

 ▲84歩△77角成が、押さえの駒をはずしながらの詰めろで、▲同金とも取れないとあっては(△58に頭金で詰み)、これは先手が勝てない。

 里見は▲48玉と早逃げして、△77銀不成▲98桂(!)。

 

 

 逆サイドから勝負手を放つが、またも角取りを放置して、△68銀不成と進撃。

 ほとんど、チキンレースのような前のめりさだが、▲86桂と取られても、まだ自陣は耐えていると見切って、果敢にアクセルを踏みこむ。

 なんちゅうキモの太さや。朋ちゃん、シビれるで!

 

 

 

 図は△26歩のタラしに▲28歩と受けたところ。

 局面は後手優勢だが、先手もなんとかしのいで、を頼りに、上部へ抜け出したいところ。

 だがここで、ちょっと気づきにくい決め手があった。

 

 

 

 

 

 △11桂と打つのが、すばらしい視野の広さ。

 一見、無筋のようだが、▲22竜と逃げたところで、この桂を土台に△23香と打つと、先手玉の逃げる形がない。

 

 

 

 直前に△26歩▲28歩を利かした効果で、▲24歩と止めることができないのだ。

 投げ槍の投擲一発で右辺を制圧され、これで先手がまいったようだが、里見は執念で▲67銀と引く。

 △58の地点を受けただけの、力のない手のように見えて、これがなかなか油断ならない。

 ▲84歩から、▲83銀のような王手ラッシュをかけたとき、なにげに後手玉の上部を押さえ、トン死筋のに一役買っているのだ。

 ここでは、今度こそ△85銀と取っておくのが冷静で、後手勝ちのようだが、西山はまたも強気に△42金とぶつける。

 これはさすがに、ちょっと気合が良すぎたようだが、里見が▲21馬とひるんだため、大事には至らなかった。

 そこで、△58歩成と成り捨てるのが、西山の構想だったのだ。

 

 

 ▲同銀と取るしかないが、こうしておけば王手ラッシュを食らったとき、△76の地点が抜けていて、後手玉に詰みはない。

 なるほどという手順で、△56歩と着実な攻めで西山勝勢。

 以下、里見の必死の抵抗を振り切って後手勝ち。

 これで2連勝の西山は、第3局こそ落とすも、第4局も制して3勝1敗女王初防衛に成功するのだった。

 

 (高崎一生と有吉道夫の順位戦編に続く→こちら

 

 ★おまけ 西山朋佳の名手「△45桂」は→こちらから

 

 


コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 戒厳令下 京都潜入記3 大... | トップ | 戒厳令下 京都潜入記4 唐... »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
西山女流三冠、編入試験目指して頑張ってください! (soborut)
2021-04-03 02:21:20
もう殆どタイトルが全てですが(笑)、西山さんが奨励会を退会されましたね。でも、女流枠で棋士の中に殴り込んでいく雄姿を見ているので、10勝5敗を達成し、編集試験の資格をゲット⇒フリクラ編入、の流れを夢見てます。
というか、彼女の強さなら普通に行ける気がします。
返信する
Unknown (sharon106)
2021-04-03 18:41:50
soborutさん、コメントありがとうございます。

西山朋佳三段が退会したことは本当に残念です。

リーグ戦で14勝しても上がれないなんて……。

奨励会って、三段リーグが「才能の墓場」と呼ばれてるとか、本当にあれでいいのかなあと、いつも思います。

西山さんには、いや彼女だけでなく、もちろん里見香奈さんらも、どんどん活躍して、次のチャンスをねらってほしいです。

もちろん、現役の中七海三段にも。応援してます!
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。