前回(→こちら)に引き続き、掟破りの京都観光戦記。
なんの因果か、仕事ついでに京都を観光することになった、バンゲリング帝国よりの使者、エーリヒ・ハインツ・マリーア・フォン・リリエンシュターン武装親衛隊少尉(そういう設定なのです)。
このご時世、観光都市である京都を歩くというのは気がさすが、友人のアドバイス通り、どこもガラガラであった。
これなら、密に悩まされることはなさそうということで、そこは安心したが、油断したわけでもないのに、思いっきり道に迷ってしまった。
ここに発動された、オペレーション「雪の嵐」では、まず二条城に行くはずが、地下鉄烏丸線をはさんで、東西反対の京都御所に到着してしまったのだ。
ガックリきたのと、寒さもあって、腰が抜けそうになった。
おまけに、御所は特になにもない公園で、ちょっと散策すると、もうすることがない。
京都のラッキースポットと言われるバス停。
ここからバスに乗ると、2分の1の確率でステキな恋人ができるが、ハズレた場合は「そこまで仲いいわけじゃないけどなー」くらいの知人が死ぬ。
雪こそ降らなかったものの、その日も京都は寒く、厚着の嫌いな私はガクガク震えまくり。
なにやら、スターリングラードの悪夢がここによみがえり、なるほど、白い地獄の中で立ち尽くした、ドイツ第6軍フリードリヒ・パウルス上級大将の気持ちはかくばかりだったか。
このままでは凍死必至と、ともかくも引き返すことにする。
京都という街のすばらしいところは、その歴史の深さでも、観光資源の豊富さでもない。
それはズバリ、「碁盤の目」状に作ってあることだ。
私のような、ドのつく方向音痴には、すこぶる優しいデザインである。
道に迷っても、ともかくも方角さえつかめれば、なんとかなる。
これは大阪という、ゴチャゴチャしたカオスの街並みになじんでいると、本当にありがたい。
梅田あたりの、あのわかりにくさも辟易するもので、少尉も遊びで、バイトで、仕事で、山ほどあの街に出かけているが、いまだ彼の地の正確な地図が書けない。
なので、いつも梅田に行くときは地元というよりも、バンコクやサイゴンのような
「アジアの大都市」
を歩く気分で、疑似海外感を味わうことにしている。
二条城にある美しい庭園と池。
水面に映る自分の姿にウットリしていたナルキッソスが、突然あらわれた河童と相撲を取らされたというエピソードが残っている。
そんな私なので、特に用事があるときに道に迷ったときは、もう断然、京都のスクエアなマップがうれしい。
もっとも、大阪のゴチャゴチャ感は、よそさんから見たら、それはそれで魅力もあるよう。
以前、これも仕事で、お金持ちで高級住宅地に住んでいたというエリート青年と大阪の街を歩いていると、
「大阪って、おもしろいですよねえ。僕が住んでいたところは、人も街並みもフラットで、丁寧に殺菌されたようなところだったから、すごくつまんなくて」
なんて目を輝かせてたから、そんなもん見慣れてるネイティブとしては、
「そんなもんかねえ」
と言うしかなかったけど。
きっと京都人は寺社仏閣や、碁盤の目の街にたいした感動もないだろうから、人それぞれだなあ。
なんとか進路を修正しつつ、二条城につながる堀川通に出る。
とりあえずホッとしたので、地下鉄烏丸御池駅のパン屋で買った、チーズとハムのカスクルートをもそもそ食してランチ替わり。
カスクルートとは、フランスパンで具をはさんだだけのシンプルなサンドイッチ。
これが本場のパリで食べたものと同じ造りで、なつかしくなって買ってしまった。
本当なら、せっかく京都に来たのだから、地元のおいしいものでも食べるべきなのだろう。
だが、なじみでないところにフラッと入るのが苦手なので、なんとなくタイミングを逃してしまった。
京都の食べ物に、無知なせいもあったかもしれない。無念である。
なら、京都出身で京都本もたくさんものしている、マンガ家のグレゴリ青山さんが言うように、「京都王将」を目指してみたが、丸太町界隈では発見できなかった。
結局、迷い疲れて、サンドイッチを買い食いすることになったのだが、値段は400円で、味もまずます。
私はトマトやレタスがゴチャゴチャ入ったものより、こういうストレートなタイプの方が好みなので、なんだかいい気分。
パリの雰囲気を、思わぬところで味わえてトクした気分。ちなみに、志津屋というパン屋さん。
腹もくちくなると、外は日が照ってきたこともあって、多少は寒さもまぎれてきたところで、ようやっと二条城に到着。
(続く→こちら)