「三桂あって詰まぬことなし」
とは将棋の「使えない格言」として、よく出てくる例である。
桂馬というのはトリッキーな動きをするため、いいところで使えばすこぶる強力な駒だが、反面利きが少ないためか、たくさん持ってても、そんなに使い道がなかったりもする。
ましてや、王様を詰ますときなど、3枚もらえるなら金銀とかのほうが絶対に便利なわけで、
「三桂あっても役に立たない」
「三桂あって詰んだとこ見たことない」
など散々な言われかたをしたりする。
そこで今回は、あえて「三桂あって、こりゃありがたや」という将棋を紹介したい。
しかも使い道は「受け」だというのだから恐れ入る。
主人公は前回と同じく、長谷部浩平四段も大リスペクトする、あの大先生で……。
1951年、第5期A級順位戦。
升田幸三八段と高島一岐代八段の一戦。
角換わり腰掛け銀から先手の升田が仕掛け、後手の高島が端から反撃していく。
升田が優勢になるも、本人も認める悪いクセである「楽観」が出てしまい、気がつけばおかしなことになってくる。
攻守が逆転してからは、「日本一の攻め」を売り物にする高島のパンチが炸裂し、さしもの升田も防戦一方。
むかえたこの局面。
高島が△76銀と打って、先手玉しばったところ。
先手陣は金縛りにあっており、△47竜の詰めろがかかっている。
一方、後手玉にまだ詰みはない。
どう見ても先手負けだが、ここから升田は手を尽くして、あれやこれやと受ける。
達人のしのぎを、とくとご覧あれ。
▲39桂と打つのが、妙手順の第一弾。
△同竜と取るのは、詰めろがはずれるからそこで▲61飛や▲15桂と攻め合う。
これは受けがないし、再度△37竜などとせまっても、あと2機「▲39桂」の犠打が残ってるから先手が勝つ。
高島は△68銀不成と一手スキでせまるも、今度は▲69桂(!)。
△58金と必死の貼りつきにも、またもや▲49桂(!)。
これが▲57の地点を受けながら、△37の竜当たりにもなっている。
これで足が止まった高島は、やむを得ず△57銀成、▲同桂左、△同金、▲同桂右、△52桂、▲86馬、△64歩と、むりくり詰めろをかけるも、さすがに駒を渡しすぎ。
▲31銀から、後手玉は寄り。以下、△同玉に▲71飛から升田勝ち。
升田といえば
「角換わり升田定跡」
「升田式石田流」
「天来の妙手△35銀」
など攻撃的なイメージがあるが、
「受け切って勝つ」
ことを好んでいたのは本人の弁。
「常にスレスレの線を行く」
というヒゲの大先生の言葉通り、見事な読みきりであった。
(升田のポカ編に続く→こちら)
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