前回(→こちら)の続き。
ダラダラ棋譜並べと、ネット将棋だけで、定跡もおぼえず詰将棋も解かずに「あと1勝で三段」だった二段になれた私。
その武器は
「いい意味テキトーに指しての逆転勝ち」
であり、前回はそのコツのひとつ、
「とにかく玉を固めとけ」
というのを紹介したが、今回伝えたいのがこちら。
■逆転のコツ その3
「とりあえず、成駒寄せとけ」
将棋の不利な局面で、
「駒損で、攻めが切れ筋におちいる」
というのがある。
私など序盤のかけ引きなんかが、めんどくさいタイプなので、なにも考えずに、どーんと仕掛けて行ったりする悪癖がある。
これがまた攻めの下手な自分が、うまくやれるわけもないので、たいていが、
「大きな駒交換があって、おちついたところで計算したら銀損で、一体なにをやってるのか」
みたいなことに、なりがちなのだ。どんだけ見切り発車やねん。
で、私の場合「ここからが本番」になるのだが(←いや、その前にもっと考えろよ!)、駒損だと困るのが、とにかく戦力が足りないこと。
まともな攻め合いでは勝ち目がないので、こういうとき発動させるべき「クレイヴァリング作戦」により、とりあえず成駒を作るのが良い。
基本は歩をタラしての「と金」作りで、
「と金は金と同じで金以上」
という格言通り、これが一枚加わるだけで、一気に頼もしさを感じる。
特に穴熊はがんばって、と金で金を一枚けずれたら、相当に「見えてくる」形だ。
残念ながら歩切れだったり、いいところに歩が立つ筋がなくても、桂や香をひっくり返して攻める。
振り飛車なら遊んでいる桂馬を▲85桂から▲73桂成とか、場合によっては歩でなく「香をたらす」なんてのもありだ。
1996年の第54期C級2組順位戦。武市三郎五段と、勝又清和四段の一戦。
▲72歩とタラしたのが、「こんな手で幸せになったのは、大山先生しかない」と言われた手。
だが、この歩はのちに▲71歩成となり、▲72と、▲73と、と桂馬を取る活躍を見せ、武市はその桂を好機に使って勝利。
『対局日誌』でこの将棋を取り上げた河口俊彦八段は、
「この局面で筋は▲46歩、△同歩、▲45歩だが、きれいな手はかえって危ないという面もある」
え? 筋が悪い? あとで棋譜を見た人に怒られそう?
さもあろう。
だが、こっちは現実に今、局面が不利なのである。こういうときは
「なりふりかまわず、貼りついていく」
これが大事なのである。
カッコつけるより、とにかく嫌がらせをする。この精神で戦う。
そのためには、「成駒を作って寄せていく」というのは、なかなかのメソッドなのだ。
元手がかからないうえに、成桂やと金がジリジリせまっていくと、これが相手に相当なプレッシャー。
1993年のB級1組順位戦。加藤一二三九段と森安秀光九段の一戦。
加藤はA級昇級、森安も消化試合ながら、勝てば兄のように慕っている内藤國雄九段にチャンスが回ってくるとあって、おたがい負けられない大一番。
先手が指しやすそうながら、次の手がむずかしいと言われる中、▲11にいたと金を▲12と(!)、と引いたのが鍛えの入った名手。
以下、先手は▲13と、▲14と、▲24と、とパクパク駒を取り、振り飛車にプレッシャーをかける。
あせらされる森安は暴れていくが、加藤は得した駒で▲39歩、▲67銀と面倒を見て、最後は端からラッシュをかけ、4度目(!)のA級復帰に成功。
さらには、こちらが
「むずかしいことを考えなくていい」
というのも大きい。
有利な局面では、むこうが「決め手」を発見しなければいけないが、こっちはただ成駒を動かして「あなたまかせ」でいいのだから、楽なものである。
敵の猛爆を、防空壕の中で耐え忍びながら、それでもジリジリと忍び寄っていく。
相手が寄せそこなえば、その瞬間に、と金でガブリとかみつけばいいのだ。
成駒で金銀をボロボロはがせる形になると、なにも考えずに寄せることができるから、詰将棋をやらない、穴だらけの終盤でも簡単に勝てる。
こうやって、相手が必死で手を読む中、こっちはノータイムで▲73桂成、▲63成桂、▲53成桂、▲42成桂、▲32成桂と、ひたすらなにも考えずにすり寄っていく。
そうして、むこうが28秒(58秒)くらいまでギリギリ考えてるのを見ながら、
「おー、あせってる、あせってる。こら決め手がありそうで、なさそうで、悩んでますなあ。大悪手や大ポカ、お待ちしてます」
必敗の局面にもかかわらずスマホやタブレットの画面に、そんな余裕ぶっこき丸な態度を取れれば、すでに逆転への黄色いレンガの道は見えてきているのだ。
(続く→こちら)