「本格派」の演舞 斎藤慎太郎vs大平武洋 2015年 第1期叡王戦

2021年03月07日 | 将棋・好手 妙手

 斎藤慎太郎八段が、名人戦の挑戦者になった。

 一時期は、糸谷哲郎、菅井竜也、豊島将之、そして斎藤といった面々が次々とタイトルを獲得し、大いに盛り上がっていたはずの関西棋界

 どっこい、その後は「藤井フィーバー」が棋界を席巻し、二冠をキープしている豊島竜王・叡王以外は、すっかり影が薄くなってしまう。

 このまま、おとなしくなってしまうのかと思いきや、ここから逆襲がはじまるわけで、まず手始めに豊島二冠が、羽生善治九段相手に竜王防衛。

 久保利明九段王座戦に登場し、山崎隆之八段は悲願のA級へ。

 「怪物糸谷八段が、棋王戦で久しぶりに大舞台に上がってきて、とどめに斎藤の名人挑戦。

 突然の爆発ぶりで、(稲葉陽はどうした、元気ないゾ! 今度こそNHK杯優勝だ!)、時代の波に飲まれてなるかと、みなが気を吐いている。

 ということで、前回は米長邦雄脇謙二の「人間味あふれる」将棋を紹介したが(→こちら)今回は名人挑戦のお祝いに、斎藤慎太郎の快勝譜を見ていただくことにしたい。

 

 2015年の第1期叡王戦の五段戦予選。

 大平武洋五段と、斎藤慎太郎五段の一戦。

 先手になった斎藤が、相矢倉から「脇システム」に組む。

 斎藤が端から仕掛け、相居飛車の先手番らしく、角を切ってバリバリ攻める。

 むかえたこの局面。

 

 

 駒の損得はないが、後手は矢倉の最重要駒である△32がないうえに、玉飛接近で不安な形。

 うまく攻めがつながれば、その弱点をつけそうだが、その通り斎藤はここから、さわやかに駒をさばいて行く。

 

 

 

 

 

 ▲25歩、△同歩、▲17桂が、筋のよい駒の活用。

 敵玉頭の歩をうわずらせて、桂馬を▲37▲17に跳ねて使うのは、居飛車の攻めの基本。

 次に▲25桂と飛べれば、▲13香成が強烈なねらいになって、後手陣は持たない。

 盤上に守備駒の少ない後手は、△33桂と投入するが、▲61角がまた急所の一撃。

 やはり矢倉戦の常套手段で、△32の金がない弱点をつく形でもあり、よりきびしい打ちこみになっている。

 △53金打の抵抗に、▲65歩と突いて、△73銀とバックさせる。

 

 

 

 利かすだけ利かして、先手の言い分が次々通っているが、ここで足が止まると、あっという間に攻めが切れるのが、相居飛車の怖いところでもある。

 歩切れということもあって、先手も細心の注意を求められるところだが、続く手が、またしても筋のよい手順だった。

 

 

 

 

 

 ▲55歩、△同歩、▲35歩が、筋中の筋という突き捨て。

 これはもう、私レベルの棋力でも、並べながら

 「ここは、こうだよね」

 自然に手が行くというほどの、ぜひとも指に覚えさせておきたい流れなのだ。

 いやもう、ここは見る聞くなし。

 仮に、この後の手順が1手も読めなくても、ともかくも、この突き捨て。理屈じゃない。

 △35同歩に、▲46銀と出て、先手絶好調の図。

 

 

 

 

 これでもう、先手の攻めが切れることはない。

 このあたりはもう、本筋中の本筋という手順ばかりで、斎藤の本格派な棋風が、これでもかと出ている。

 以下、よどみない攻めが決まって、▲54歩がトドメの一撃。

 

 

 

 またしても好手筋で、△同金左▲25角成

 △同金直▲43角成△同飛▲35銀で、▲16飛の活用もあり、もはや受けはない。

 ここで大平が投了

 この将棋は斎藤が『将棋世界』のインタビューで、自ら取り上げていたが、その気持ちはわかるくらいの内容。

 斎藤の風貌にもぴったり合った、風雅でさわやかな将棋。

 こんなのを名人戦でも見せようものなら、ますます将棋ファンが増えそう。

 同じ「いい男」枠の中村太地七段もそうだけど、女性だけでなく「にもモテそう」なのもいい。

 こりゃ、将棋ブームもまだまだ終わりそうにないぞと、今からホクホクなのである。

 

 (永瀬拓矢の「負けない将棋」編に続く→こちら

 

 

 

 


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