ジャンニ・ロダーリ『猫とともに去りぬ』を読む。
イタリア文学というと日本ではさほどなじみはない印象だが、幻想文学ではイタロ・カルヴィーノ。
また『薔薇の名前』で、ヒットをかっとばしたウンベルト・エーコなどなど、なかなかの実力者を擁している。
ジャンニ・ロダーリもそのひとりで、イタリア児童文学界の重鎮。
この短編集も、主に子供向けに書かれたっぽいものだが、ページをめくるとなかなかどうして、大人が読んでもいけるクチである。
ロダーリの武器は、そのフワッとしたユーモア。
いわゆる大人の童話というか、やさしいホラ話というか、のほほんとしたボケがツッコミなしでフワフワとただよう、なんというのか「ええ塩梅」な物語たちなのだ。
家に居場所がなくなったおじいさんが、猫になって第二の人生を過ごそうとする表題作をはじめ、この本に出てくる人たちは、とにかく独特なのだ。
その設定からして不思議で、
★重量挙げの大会に出るのに、寝坊してはいかんと「急いで寝過ぎて」古代エジプト時代に目を覚ましてしまった男。
☆水没の危機に瀕した街で
「じゃあ、みんなで魚になってしまえばいいんじゃね?」
と決心して、水の中で暮らすようになった家族たち。
★銃の代わりに、ピアノで決斗するカウボーイ。
なんか、おかしくて、かわいいのばっかり。
「急いで寝すぎて過去に目を覚ます」って、すごい発想だよなあ。
一番のお気に入りは『恋するバイカー』。
文字通り、日本製バイクに恋した、金持ちのボンボンが主人公。
世のマニアやオタクと呼ばれる人は、その興味の対象を語るのに「恋する」と表現することはあろうが、この青年は本当にガチで「異性として」恋しちゃうのだ。
なんたって、結婚まで決心してしまうというのだから、マジもマジも大マジメ。
当然のこと、父親をはじめ周囲から大反対。
だが、そんなことで熱い想いを止められるはずもなく、恋する青年はついには「左のチェンジレバーのミーチャ」に乗ってかけおち(!)してしまい……。
というドタバタ喜劇。
トボけててバカバカしくて、それでいて読後感はほっこり幸せという薫り高い一品。もう読んでて、ニコニコが止まりません。
この中で描かれる親子のやりとりが、私は大好き。
ロダーリの持つ独特のフレーバーを、もっともよく表しているのではないかと思うので、ここに引用して本日の幕としたい。
ステキな社長令嬢と結婚させたがっているパパとママに、キッパリと断りを入れる息子のセリフがコレ。
「嫌だよ。バックミラーがないもの」