実は最強とはヤメタランスなのではないか。
というのは怪獣ファンの間でときおり語られる話題である。
前回(→こちら)続いて怪獣の話。
特撮映画やドラマでは地球を蹂躙する怖ろしい存在として描かれるわけだが、時には「なんやこれ?」といいたくなるような、マヌケな怪獣というのが存在する。
ここまで、パンダ大好きスチール星人、餅を食うためにわざわざ月からやってきたグルメ怪獣モチロンを紹介したが、マヌケといえばこれにとどめをさす。
そう、『帰ってきたウルトラマン』に登場したヤメタランス。
地球侵略をねらう悪の宇宙人ササヒラーによって送りこまれてきた怪獣だが、こやつの使う技というのが、
「人間のやる気を無くさせること」
ヤメタランスにかかると、勤勉が売り物の日本人でも、みんな「やーめた」といって、なまけ者になってしまう。
なんともスローライフな怪獣だ。おそらく、ギリシャとかイタリアあたりにも生息していると推測される。
これには地球人だけでなく、なんとウルトラマンすらも「やーめた」と戦闘を放棄してしまうのだから、なにげにすごい能力である。
それにしても、得意技よりすごいのは名前だ。
人に「やーめた」といわせるからヤメタランス。
なつかしの学研まんがひみつシリーズ(知ってる人は同世代くらい)『できる・できないのひみつ』に出てきた、なんでもできっこないと否定するネガティブ外人
「デキッコナイス」
これと並ぶ、ハイセンスなネーミングである。
前回のモチロンもそうだが、ヤメタランスのフォルムもかなり破壊的だ。
古代怪獣グドン
巨大魚怪獣ムルチ
ヤメタランス
そんなある意味最強のヤメタランスを、どうやって退治できたのかといえば、そのからくりは、ある少年にあった。
地球上の全人類が「働くのやーめた」「戦うのやーめた」と学業や職場を放棄するという、すばら……もとい絶体絶命のピンチだったが、その少年の、
「ウルトラマン、がんばれ!」
との声に脱力モードから覚醒し、「少年よ、ありがとう!」と見事ヤメタランスをやっつけるのだ。
地球の平和は守られた、メデタシメデタシ。
といいたいところだが、ではなぜにてその少年は世界でただひとりだけ、やる気を失わなかったのかと問うならば、その少年が本来なら重度のなまけ者だったから。
そんな周囲が、さじを投げるボンクラはヤメタランスの攻撃のおかげで、
「なまけることを、なまける」
ことになったというのが真相。
つまりは、マイナスとマイナスをかけるとプラスになるようなもので、なまけ者であることをやめたことによって、逆にやる気満々の超アグレッシブ少年になになったのだ! バンザーイ、バンザーイ!
なんだか、はしを渡ってはいけないなら、真ん中を渡ればいいんですよと言い放った一休さんみたいだ。とんちかよ!
これにはまだ小学生だった私も、感心するやらあきれるやらで、
「こんなもんが大人の世界で通用するか!」
と子供心(!)にも思ったものだ。
こんなアホな脚本書いて、このシナリオライターこそヤメタランスに脳をやられてしまったんじゃないのかとクレジットを見てみると、書いたのは小山内美江子さん。
なんと、金八先生の脚本を書かれた、偉いお方なのであった。
これには二重に、コケそうになった。
金八と見せかけて、ヤメタランス。どんなフェイントだ。芸域広すぎではないのか。
なんにしろ、このヤメタランスは、フォルム、得意技、脚本と、すべてのトホホぶりが備わった、かなりハイレベルな「なんやこれは怪獣」である。
これを見つけてきたササヒラーのすぐれたプロデュース能力に脱帽だ。