前回(→こちら)の続き。
「現代アートって、どうやって鑑賞したらいいんですか?」。
そんな難儀な敵との戦いに、ひとつの補助線をひいてくれそうな論としてこういうものがある。
「アートとは、お笑いでいう『ボケ』である」
こう喝破したのは、メイプル超合金のカズレーザーさんもおすすめ『昔はよかった病』などでおなじみの、パオロ・マッツァリーノさん。
「アート」というのがむずかしいのは、個人的な感覚としては
「リアクションの取りようがない」
ということではないか。
スポーツならスーパープレーは素人でも拍手を送りたくなるし、スコアを見ればどっちが有利か形勢もわかる。
お笑いや手品、音楽はまさにそのライブ感覚で、わかりやすく反応できるものだ。
ところが、これが芸術となると、そうはならない。
すぐれた作品を見ても、それが良かれ悪しかれ、「うむ」とか、「なるほど」くらいしか口にしようがない。
もっといえば、私のような自意識過剰な人間など「いい」と思っても、それをすなおに出すのは、
「オレは芸術を理解できるぞアピール」
で、なんだかイタいのではないかと心配になるし、逆に「ダメだ」となっても、それはそれで、
「最新の芸術的センスについていけないポンコツ男」
そう解釈されるのではと、気になって言い出せない。
そうした苦悩の末、目の前にあるものをもう一度確認すると、マネキンがサイケデリックに塗られていて、そこに「原子への飛翔」とか題がついてたりして、頭をかかえることになる。
そこで、この「どないせい」の部分に光をあたえるのが、パオロさんの論だ。
「現代アートっていうのはとは、お笑いでいう『ボケ』」
そこに続けて、こういうわけだ。
「だから、その相手がくり出す珍妙なアイデアに、どんどん『つっこみ』を入れればいいんです」
現代アートはボケだから、つっこみを入れろ!
まさに『つっこみ力』なる著書もあるパオロさんならではの意見だが、実はこれは単なるウケねらいではない。
パオロさんの言葉を私なりに要約すると、アートというのものの本質は「非日常的な発想」であると。
われわれがふだん生きていてとらわれがちな「普通」「当たり前」「常識」といった膠着した思考に、別角度の切り口をあたえ、そのことにより感性をゆさぶるのだと。
つまりこれは、構造的にいえば「ボケ」であると。
「サービス」には「レシーブ」「什麼生(そもさん)」といえば「説破」のように「奇想」には「常識からのつっこみ」が正しいリアクション。
なるほど、われわれは難しく考えすぎていたのだ。
それこそ、アートといえばこの人のアンディー・ウォーホールなら、
「缶詰ばっかりや! キリスト教原理主義者の地下室か!」
「毛沢東主席、多いな! これ全員で大躍進と文革やったら、どんだけ死人出るねん!」
「『エンパイア』8時間て、どんだけやねん! 小林正樹監督の『人間の條件』と、《どっちが地獄かロングラン上映会》開催せえ!」
「毛沢東主席、多いな! これ全員で大躍進と文革やったら、どんだけ死人出るねん!」
「『エンパイア』8時間て、どんだけやねん! 小林正樹監督の『人間の條件』と、《どっちが地獄かロングラン上映会》開催せえ!」
この調子である。
これだったら、どんなワケのわからない作品を見せられても、反応に困ることはない。
ゆにばーすの川瀬名人でも、ラランドのニシダ君でも、好みの「つっこみ芸人」を参考に、どんどん見ていけばいい。
かつて村上隆さんが、ある対談でこんなことを語っていた。
「アートというのは、バカをやることなんですよ」
それこそ村上さんの出すものなど、非常に賛否両論を呼ぶ時があるというか、正直私などもなにがいいのかよくわからないけど、そういうときも、「バカをやる人」に対するように、
「全然おもんないやん!」
「すべっとるがな!」
もう、ガンガンいけばいい。
だって、「アート」なのに、全然心が動かないというのは、漫才やコントでいえば「笑いが起きていない」のと同じようなもの。
「奇想」「バカ」に対して、「ふーん」としか返ってこないなら、それは「すべっている」わけだから、そう伝えるしかない。
お笑い好きの女子高生がライブ後のアンケートに書くように、
「もう少し、ボケの方ががんばってくれると、よりおもしろくなったかもしれません」
とか言っておけばいいのだ。すべってるのは「むこうの責任」なんだから。
以上のようなことを、アビコ君に伝えてみたところ、
「なるほど! それやったら、ボクにもできそうですわ。お笑いやったら、よう見てますし」
こうして私は、一人の悩める後輩をまた救ったのだが、彼によると、後日に有名な「アート映画」に出かけて、彼女の隣で、
「『みーなごーろーしー♪』って楽しそうに歌うな!」
「火を吹いて後ろ向きに飛ぶとか、どういうセンスや!」
「100万人ゴーゴー大会って、20人くらいしかいてないやんけ、いかす、いかすゥ!」
などと、その感性のままにバンバンつっこんでみたそうだ。
これが、思ったよりも痛快であったらしく、
「そうかー、アートってこんなおもろいもんやったんかあ」。
ミイラ取りがミイラというか、アビコ君自体すっかりアートにハマってしまったそうだが、肝心の彼女はといえば、
「こんなオシャレなところで、バカみたいに大声出して、恥ずかしいったらありゃしない!」
すっかりへそを曲げてしまい、気まずいデートとなってしまったという。
嗚呼、まったく芸術をわからぬ無粋な女であることよ!