「硬式野球部」とか「ロック」とかが醸し出す謎の「格上」感について

2023年08月24日 | 音楽

 変わった趣味の人を見ると話を聞きたくなるのは、自分が将棋ファンだからだろう。

 ということで、前回ここで

 

 「数値などに出る《タテの評価》ならわかるけど、《ヨコの価値観》に優劣をつけようとする発想が、あまり意味がない

 

 という話をした。

 要するに「100メートルを何秒で走るか」「テストで何点取れたか」は一応(これもあくまで「一応」だけどね)優劣はつけられるが、

 

 「軟式テニスと硬式テニス」

 「アニメ映画と実写映画」

 「カポエイラと殺人空手」

 

 といったような「横並び」のものに、どっちが上とか下とか言っても、たいした意味もないし、そこで生まれる「マウントの取り合い」にも興味ないわけだ。

 なんてことを考えた、きっかけのひとつに、高校時代の思い出がある。

 今はどうか知らないけど、私が10代のころはスポーツと言えば圧倒的に野球がメジャーであった。

 たとえばサッカーが今のように普及するのは1998年ワールドカップからで、それ以前は国民的スポーツと言えばもうこれがプロ野球高校野球が圧倒的だったのである。

 そのせいか、わが母校である大阪府立S高校でも、野球部が妙にイバッていた。

 なんであんな、他の運動部より「格上」感出してたんだろうか今でも謎だが、なーんとなく「ウチらは花形クラブ」って空気感で校内を闊歩していた。

 そもそも野球に興味ない生徒にとっては、そんなもん「ゴージャス松野の今」くらい興味ない。

 加えてウチの世代のチームはなんと、公式戦で1勝もできないまま引退してたのに、それでも自信満々で本当に不思議だったのだ。

 まあ、S校は校風的に超ゆるかったから暴力的だったとか、そんな嫌な思いをしたわけでもないけど、

 

 「根拠がよくわからない」

 

 というところが、個人的な引っ掛かりではあったのだ。 

 私の感覚では野球部もテニス部も、茶道部も文芸部も同じクラブ活動にすぎないからだ。

 翻訳家で、ポールオースタースティーブンミルハウザーの名訳でも知られる柴田元幸先生は、あるエッセイでこんなことを書いている。

 


 一九六〇年代なかばのベトナムが舞台のアメリカ映画『グッドモーニング・ベトナム』では、ポルカとロックンロールが対照的に描かれている。

 ポルカは、上官が「正しい娯楽」として押しつける、圧倒的に退屈な音楽。

 ロックンロールは、上官がマユをひそめる、兵士たちに圧倒的に人気のある音楽。

 ロビン・ウィリアムズ演じる人気DJが米国放送でロックンロールをかけまくり、兵士たちは大いに盛り上がる。

 そりゃ確かに、歴史的に見ても、当時ポルカという音楽が、新しいエネルギーや創造性をみなぎらせていたとは思わない。

 明らかにロックンロールの方が、時代の息づかいを敏感に捉えた音楽であっただろう。

 でも、自分の正しさを大声で言うのはみっともないことである。ロックをそういう独善のなかに持ち込んでほしくない。

 

   ―――柴田元幸「がんばれポルカ」


 


 古いロックを愛する柴田先生だからこそ、あえて言いたくなったのだろう。

 私もあの映画におけるロビンの「独善」にはウンザリしたクチ。

 彼はきっと将来、若者にロックを「正しい娯楽」として押しつけるに違いない。あー、イヤだ、イヤだ。
 
 別に音楽に優劣なんてない。でもなんか、時にまるでロック(人によってはクラシックだったりジャズだったりそれぞれ)が「すぐれた音楽」であるかのようなアピールをする人がいる。

 音楽にはくわしくないけど、それこそロックがそういう態度を取るのは「ロックじゃねーな」という気分にはさせられる。

 実際『20世紀少年』をはじめ「ロック世代」の描く

 

 「ロックは世界を救う」

 

 みたいな作品には一様にロビンと同じ、そういう欺瞞がかくされている気がするぞ。

 ポルカもロックも、クラシックジャズアニソンも、アイドルソング演歌歌謡曲もすべてヨコに等価である。

 そこあるのは、ただ「好き」という感情だけだ。

 でもそれを、そのときたまたま「権力」があるからといって振り回すような者がいれば、そういう人とはあまり友達になりたくないものである。

 


 ★おまけ

 (ゆかいな「不発弾マニア」についてはこちら

 (「スイッチマニア」の友人についてはこちらからどうぞ)

 

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