前回(→こちら)に続いて、佐藤俊『越境フットボーラー』を読んだおはなし。
この本では香港やヴェトナム、はたまたアルバニアといった、日本ではまず知ることのないサッカーリーグのことが語られている。
そのカルチャーギャップに、選手たちが戸惑いながらも立ち向かっていくところが読み所のひとつだが、中でもユニークなのが、伊藤壇選手がプレーしていたブルネイ。
ブルネイといえば豊富な天然資源でもって、その王族は世界一金持ちなどといわれている。
大金持ちといえば、野球やサッカーに競馬など、スポーツのオーナーになったりするというのがひとつの定跡であるが、ブルネイの場合はさらにふるっていて、なんと試合に出場してしまう。
世界の成金王族や独裁者といえば、そのありあまる富でもって、バカでかい宮殿みたいなのを造ったり、国中に自分の銅像を建てたり、そういう、わりとトホホなことをしがちなところが、腕の見せ所(?)。
ブルネイの王族もその御多分にもれず、不労所得を使ってマイケル・ジャクソンを呼んだり、やたらとでかい遊園地を造ったり、やることが変というか、実に独創的でユニークなのだ。
莫大な天然資源マネーで造るのが、ゆかいな遊園地!
ステキである、としか言いようがない。
そんな庶民派(?)王族のブルネイだが、ビッグマネーの力で試合に出てくるのは、なんと皇太子殿下。
しかも、オープニングのスピーチとかではない。本当に選手として登場するのだ。
それもエキシビションではなく、本式の公式戦でである。マジか。
以前クロアチアでは、テニスのウィンブルドン・チャンピオンであるゴーラン・イバニセビッチが、
「どうしてもプロサッカーの試合に出たい!」
ワガマ……ファンとして熱く要望し、なんと本当にクロアチアリーグの公式戦に特例で出場したことがあったけど、それ以上のご乱心である。
日本でいえば、なでしこジャパンの試合に、愛子様や佳子様が出場するようなもんか。
なんとも、おおらかなリーグであるが、この天覧試合ならぬ天出試合とでもいうのか、これが当地では、なかなかの盛り上がりを見せるのだという。
なんといっても、試合でプリンスが良いプレーを披露すると、ゴキゲンになって選手にボーナスが出るそうな。
それも、さすがは世界の大金持ち。
金一封なんてセコイことは言わずに、ドーンとベンツか一軒家。
当然のこと、みなプリンスにナイスシュートを決めてもらおうと、必死のパッチでアシストにつとめる。
そらそうだ、これ以上効率の良い「出来高制」もあるまい。シュート一本、即ベンツ。
また、プリンスが、万一ケガなどされては大変なので、敵チームも下手なことはできない。
ゴール前など、普通なら激しくタックルやチャージを決めるところを、そっと触れる程度。
いわば、シューティングゲームの「無敵」状態なので、伊藤選手はいつもさりげなく、プリンスの近くでボールを追っていたという。
そうすれば、自分もけずられないし、スペースが空いて、のびのびプレーできるからだ。
昔、子供同士で鬼ごっこをやっていたときに、小さい弟とか妹がまじると、タッチしても鬼にならない「ごまめ」というルールがあったが、それを思い出してしまった。
うーん、なんていい加減なという気もするが、これはこれで楽しそうである。
フーリガンが暴れるとか、そんなギスギスしたゲームより、こっちのほうが全然健全かもしれん。
なにより、このやり方だと、押しつけがましい愛国教育なんかよりも、よっぽど王族に親しみが持てるではないか。
日本も取り入れてみればどうか。