アルバニアやインドネシアのサッカーリーグってどんなの? 佐藤俊『越境フットボーラー』

2018年02月02日 | スポーツ

 佐藤俊『越境フットボーラー』を読む。

 日本人のサッカー選手といえば、Jリーグでプレーするのが夢であり目標だが、この本では海外で活躍する選手を追いかける。

 というと長友佑都香川真司といった、イタリアドイツという「本場」に挑んだ男たちかと思いきや、そうではないい。

 主にアジア中南米。

 またヨーロッパでも、マイナーな国でプレーする選手に、スポットを当てているところが、本書のユニークなところだ。

 たとえば、星出悠選手は社会人選手としてプレーしていたが、そこでチーム再編という事態に巻きこまれてしまう。

 社員として残るか、それとも安定した身分を捨ててでも、サッカーを続けるかの選択をせまられる。

 悩んだ末に渡米し、そこでプレーした後、紆余曲折あってトリニダートトバコリーグに所属することに。

 CONCACAFチャンピオンズリーグ(北中米カリブ海のクラブチームによる大会)に出場するなど、大活躍を見せた。

 中村元樹選手は、子供のころから海外でプレーすることを夢見ていたが、資金の問題などで断念。

 そこで、地道に日本でやっていくことを決意するが、なんと進学先の高校にはサッカー部がなかった

 やむをえずフットサル部に入るも、正規ルートからの、Jリーグへの道は閉ざされることに。

 だが、そこでくじけなかった中村選手は、単身ドイツに渡り、ヨーロッパやアジアのチームとも交渉。

 アルバニアリーグでプレーすることが決まり、現地メディアで

 

 「アルバニアで初めてゴールを上げた日本人」

 

 大きく取り上げられることとなった。

 酒井友之選手は、ナイジェリアで行われたワールドユース準優勝メンバーだが、その後所属したヴィッセル神戸から、戦力外通告を受けてしまう。

 エリートがまさかの挫折だが、サッカーへの想いは絶ちがたく、インドネシアに飛んでプレーを続けることに。

 インドネシアリーグなんて、日本では想像もつかないが、行ってみると待遇面は、下手なJリーグのチームより良かったそう。

 また収入面では落ちるものの、物価を比較すればむしろ日本にいるよりも余裕のある生活が出来るというから、なんでも聞いてみないとわからないものである。

 このように個性的な面々が登場する本書では、香港ヴェトナムインドといった、日本ではなかなか知ることのできないサッカー事情もかいま見えて、非常に興味深い。

 本書を読むと、そういった未知の世界に触れることができると同時に、世の中には「様々な生き方がある」と感じさせられる。

 もちろん、彼らもなじみのない外国では、言葉カルチャーギャップなどで苦労することも多く、



 「やっぱりJリーグでやりたいし、環境的な面では日本が最高」



 口もそろえるが、それでもインドネシア香港マレーシアなどは、下手に日本でくすぶるよりも、金銭面でも待遇面でも充実しているというのは、何度も出てくる話。

 また、人脈という点では、国内だけでは絶対に出会えないようなツテができたりもする。

 なにより、ひとりで当たって砕けて、「自主独立」の精神が、鍛えられるではないか。

 子供のころからサッカーやって、ユース高校選手権、Jリーグ、海外。

 というのがエリートの基本パターンであろうが、世界にはその道一本だけではない、他にも様々なルートや可能性が存在する。

 そのことが、教えられる。

 そうなんだよなあ。

 沢木耕太郎さんも『深夜特急』でいってたけど、日本では

 

 「進学→就職→出世コース」

 

 みたいな、正規ルートの人生からはずれてしまったり、自らの意志で降りたりした人、いわゆる「ドロップアウト」からの選択肢が少ないと。

 中には、ちょっと変則的な道を歩んだだけで「負け犬」とか「あいつは逃げた」などと、決めつける人もいる。

 ややもすると、スポーツの世界で体罰や、非人道的なしごきなどがはびこりがちなのは、この「正規ルート」を権力者側が「人質」に取っているから、という面もあるのではないか。

 でも、実際のところは人の生き方なんて千差万別だし、今のご時世、ドロップアウトせずに「逃げ切る」ことは難しいかもしれない。

 だとしたら、我々はこういう敷かれたレールからはずれた人の話に、もっと耳を傾けても、いいのではなかろうか。

 むしろこれからは、こういう生き方を出来る人こそが、生き残れるのかもしれないではないか。

 たとえ何が起ろうと人生は続くのだ。

 この本を読めば、たとえ一度はつまずいたりしても、やる気と工夫と努力次第では、なんなりとやりようはあるかも、と教えられる。

 進路で悩んでいる方や、自分が目指していた道から、ちょっと回り道してしまったという人にも、ぜひ読んでみてほしい一冊。

 少し視界が広がって、力がわいてくること請けあい。

 

 (続く→こちら





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