1999年サッカー フランスリーグ優勝決定戦 パリ・サンジェルマンvsボルドー その3

2017年08月05日 | スポーツ
 前回(→こちら)に続いて、フランスリーグ観戦記。

 地元パリ・サンジェルマン相手に、勝てば優勝のボルドーが2-1でリード。

 栄冠まであと一歩と、ボルドー応援団の士気も高まるが、そこにスタジアムをゆるがす悲鳴がとどろいた。勝ち越し点が入ったところで「終わったな」と、のんびりオヤツでも食べていた私は現実に引き戻される。

 なにがおこったのかと視線を落とすと、負けられないというプロの習性か、はたまた男の意地なのか、残り時間10分というところで地元パリSGが、必死の大攻勢をかけはじめたのだ。

 通常ならばここで、

 「目の前で優勝なんてさせてたまるか!」

 「行け! パリ! ホームの意地を見せろ!」

 なんて、最後のドラマを期待してハッパでもかけるところだが、先も言ったように会場の雰囲気はすでに

 「ボルドー優勝おめでとう」

 これで、できあがっている。ライバルであるはずのパリ人も、すでにそういう湯加減なのだ。

 そこに意地のアタックとは、どういう了見か。会場は敵味方が一体となって、

 「こら、パリSG! いらんことすな!

 「このままボルドー優勝でええねん!

 「空気読め、このぼけなす!」

 なぜか、ホームチームにありったけの罵声を送る、パルク・デ・プランスの観客たち。

 サッカーと言えば基本的には「地元愛」が強調されることが多く、『ナンバー』とかのスカした記事を読むと、外国人はみながみな、

 「熱狂的に地元を愛する玄人のファン」

 みたいな描き方をされているけど、展開によってはこういうこともあるのである。あはは、こらおかしい。

 古くはマーフィーの法則を持ち出すまでもなく、「嫌な予感はかならず当たる」は洋の東西を問わないようだ。会場一体と化した「空気読めよ」オーラにも関わらず、試合終了7分前にパリ・サンジェルマンが同点ゴールを決めることとなった。

 2-2。終わったはずの試合は、これでまたも振り出しに。またタイミングの良いことに、ここで電光掲示板に2位につける「マルセイユ勝利」の報が流れた。

 得失点差に劣るボルドーは、これで優勝には勝つしかなくなった。

 おお、さっきまでの温泉気分はどこへやら。形勢は大逆転。一気にボルドーは崖っぷちに追いこまれたのである。

 天国にいたはずなのに、まさかの見事な死に馬キック。なんという嫌がらせ。さてはこれが、パリのエスプリというやつか。

 残りは5分少々。こうなったらアアもコウもない。ボルドーに残された道は、ロスタイムをふくめてあと10分ほどの間に、もう1点取るしかない。でないと、優勝カップはマルセイユに転がりこむのだ。

 ここからの10数分は本当に盛り上がった。攻めまくるボルドー攻撃陣、プライドをかけて必死で守るパリSG。会場の「ボルドー!」のコール。電光掲示板に映る、

 「ボルドーのシュート全部はずれろ!」

 手を合わせて呪いの念を送るマルセイユ人。

 まさにサッカーの、いやスポーツそのものの醍醐味が詰まったようなすばらしい高揚感。いやー、こらすごいですわ。

 結末の方も完璧だった。試合終了直前、ボルドーの決死のバンザイアタックが功をそうし、再び勝ち越しゴールをあげることに成功。スコアは3-2!

 その瞬間にホイッスルの音が鳴り響いた。なんというドラマチックなフィナーレか。まるで映画のようである。

 会場は歓喜に包まれた。ボルドーファンが集まっていた一角は当然として、そこの席が取れず、パリ側に点在していたボルドー人も狂喜乱舞している。

 それを、笑顔で祝福するパリ人たち。目の前で優勝されても、どつきあったりはしないのですね。

 熱闘を見せてくれた選手たちには、あたたかい拍手が。そこかしこで観客同士も握手し、抱き合い、お祝いの言葉をかけている。

 なんともいえない、充実した一体感がそこにあった。双方の健闘をたたえ合う、すばらしい光景だ。感動的ではないか。

 ベルギーに続いて期待以上に楽しませてくれたフランスサッカーだが、ここでひとつ気になることを思い出した。

 一見さわやかに見える、このなれ合いのような生ぬるい空気をゆるせないであろう、あの人。

 そう、私のすぐ近くに陣取っていた、おそらく今ごろ怒り心頭に発しているだろう、あのジェルマンおじさんのことである。


 (続く→こちら




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1999年サッカー フランスリーグ優勝決定戦 パリ・サンジェルマンvsボルドー その2

2017年08月04日 | スポーツ
 前回(→こちら)に続いて、フランスリーグ観戦記。

 テニスのフレンチ・オープン観戦に訪れたパリで、ついでにサッカーも見ようとチケットを取ったら、このシーズン最終戦のパリ・サンジェルマン対ボルドー戦が、思わぬ大一番でおどろくこととなる。

 勝てばボルドーの優勝が決定。負けると2位につけているマルセイユの結果次第と、まさにすべてをかけた決戦なのだ。

 舞台はパリのパルク・デ・プランスだが、雰囲気は数ではおとるはずのボルドーが圧倒している。

 試合は前半、ボルドーのペースで進んだ。それはそうだろう。なんといってもトップを走るチーム。そもそも地力がある。

 加えて、勝てば天国負ければ地獄の天秤の上にいるのだ。消化試合にすぎないパリSGとはモチベーションが根本から違うのだ。

 それは、観客席にも投影されているようだった。声を枯らして「ボルドー! ボルドー!」とさけぶ敵に対して、パリ側のスタンドはいかにもおとなしい。

 それは勝っても負けても立場が変わらない気楽さか、そもそもパリSGのファンはクールな人が多いのか。おそらくその両方なのだろうが、さほどの熱量が感じられないようで、みな静かに試合を見ている。

 それどころかボルドー側がミスをすると、残念そうに「あーあー」とため息をついたりする。どうもパリ側は

 「地元で優勝を決められるなんて屈辱」

 みたいな因縁はあまり重視しないようで、むしろ
 
 「敵やけど、優勝シーンを生で見られるんやったら、それはそれで楽しそうかもね」

 そんな気持ちの方が、強いようなのだ。

 このあたりも、ずいぶんとドライというか、まあゴール裏に席を取るような熱狂的な人以外は案外こんなもんかもしれない。都会人はクールだ。

 実際、試合の方も、勢いに勝るボルドーが先制点を奪う。はじけるボルドー側の客席。一方のパリ側は、「まあ、そんなもんやな」と、特にふがいないチームに憤激することもなく、うなずいている。

 そんな紳士的なムードの中、一人気を吐くパリジャンがいた。それは私の右斜め後ろに位置するおじさんであった。

 年齢的には50を超えて、ほとんどおじいさんのようだったが、パリSGのユニフォーム姿で、首にはチームのタオル。どちらも年季の入ったもので、おそらくは「年齢=ファン歴」という筋金入りなのだろう。

 この人だけは、周りのまったり感に影響されることなく、ひたすらに地元愛をつらぬいていた。

 パリの選手がいいプレーをすると拍手喝采し、ボルドーががんばると口笛を吹く。チャンスには雄叫び、ピンチには頭をかかえる。いかにも典型的なサッカー大好き地元おじさんだ。

 またこのジェルマンおじさん(勝手に命名)というのが、8歳くらいの孫を連れているんだけど、彼もまたユニフォームにタオルという完全武装にも関わらず、まったくサッカーには興味がないよう。

 地元のチームに一喜一憂するおじいちゃんをよそに、彼は心底クールというか、

 「どっちでもいいよ。でも、一緒に見てやると、じいちゃんよろこぶからな。これも年寄り孝行か」

 みたいな雰囲気を紛々とかもしだしており、なんとなくおじさんの家族の内情が察せられるというか、そのコントラストに思わず笑ってしまうのであった。

 そんなジェルマンおじさんの想いが通じたのか、それまで押されていたパリの選手たちが躍動し出す。

 やはり気楽な観客とは違って、選手からしたらライバルに意地の一発くらいはお見舞いしたくなるのだろう。勢いを得たパリは前半のうちに同点に追いついた。なめたらいかんぜよ、といったところか。

 1-1のまま、試合は後半戦には入る。同点のままだと、ボルドーは危ない。

 ここはぜひとも勝ち越し点がほしいと、さらに攻勢に出たのが当たって、後半10分くらいに再びパリを突き放す。2-1と、ボルドーがふたたびリード。

 今度こそ決定的か。残り時間が刻々と減っていく中、会場全体には、

 「ボルドー優勝おめでとう」

 な空気が流れている。もはやホームの勝利とか、どうでもいい雰囲気だ。どうやら、試合は決まったようだ。

 なかなか熱い試合やったなあ。こんなビッグゲームが見られるなんてラッキーやったなあ。

 などとすっかり終戦ムードで、帰って晩飯どうしようかなどと呑気に検討していたところだったが、どっこいお終いどころか、本当のドラマの幕開きというのが実のところここからというのだから、勝負というのはわからないものだった。


 (続く→こちら



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1999年サッカー フランスリーグ優勝決定戦 パリ・サンジェルマンvsボルドー

2017年08月03日 | スポーツ
 フランスリーグを観戦したことがある。

 前回(→こちら)は私が、プレミアリーグやセリエAではなく、なぜか1999年度ベルギーリーグの試合を見に行ったことがあるという話をしたが、その他にも私が欧州でサッカーを楽しんだのがフランスであった。

 なにげなく見たベルギーはクラブ・ブルージュの試合だったが、これがたまたま当地の英雄的プレーヤーであるフランキー・ヴァン・デル・エルスト選手の引退試合。

 その盛り上がりに当てられた私は、もういっちょヨーロッパのサッカーを見てみるかとテンションがあがり、ブルージュの次に滞在したパリでも、試合を見に行くことにしたのである。

 パリ観光の合間に、さっそく新聞を購入してリーグ・アンの日程をチェックする。

 フランス語は読めないが、日程表くらいは理解できるもので、ラッキーなことに私の滞在中に地元パリ・サンジェルマンがホームゲームを行うことになっていた。

 おお、ラッキー。ベルギーでといい、今回の旅はツキがあるなあと、対戦相手を調べてみると、これがボルドーであった。

 ふーん、まあワインでは有名だけど、サッカーはどうなんやろ。フランスリーグなんて、日本で見る機会ないもんなあ、このチームは今どの位置にいてるんかいな、と順位表に目を通してみて驚いた。

 パリの方は6位か7位くらいの平凡な成績であったが、あにはからんや、なんとアウェーのボルドーの方が順位1位であり、バリバリに優勝争いをしていたのである。

 しかも、2位マルセイユとは勝点差が、1か2くらいの超デッドヒート。

 シーズンも押し迫り、まさにボルドーは勝てば優勝決定という決戦だったのである。

 おお、こりゃすげえやん。ここにきてまた、えらい大一番が待ち受けていたものだ。いわゆる、女房を質に入れても見に行かねばならぬという一戦ではないか。まだ(今でも)独身だけど。

 期待も高まる中、5月末日、メトロに乗って、『キャプテン翼』で有名な、パリのパルク・デ・プランスにおもむくこととなる。

 スタジアムは地下鉄駅の近くにあったが、さすがここで優勝チームが決まると言うことで、試合開始前から結構盛り上がりを見せている。

 ボルドーはともかく、パリSGはほとんど消化試合なのに、なかなかの熱気だと思っていたが、どうも見た感じ、観客の数自体もボルドーの方が、かなり多い印象。

 さらには、パリ人たちが、ボルドー人に興味を失った最終戦のチケットを売りさばいている姿などもちらほらと見られ、なるほど、どうも両チームの間にはかなり温度差があるようだった。

 中にはいると、スタジアムはさすが満員であった。

 私はパリ側にすわっていたのだが、優勝のかかったボルドーにくらべると、ずいぶんとおとなしい。

 客層も、これはどこのリーグでも同じようだが、サッカーが「リア充な若者」の領域である日本と違い、どちらかといえばおじさんの多いのが特徴。

 バシッとスーツで決めたエリートよりも、どちらかといえば「地元の商店街のおっちゃん」みたいな雰囲気。最近日本では、

 「野球はオッサンが観るもの」

 と笑うヤングたちもいるそうだけど、「本場」ヨーロッパではサッカーこそまさに「オッサンが観る」スポーツであるところが皮肉だ。日本でサッカーが普及できたのは、

 「これを見ていれば、とりあえず多数派からこぼれ落ちることはない」

 という安心感をあたえるようになったことだと思うけど、これってたぶん、けっこう独特な感覚でおもしろいよなあと感じる。

 そんなことを考えているうちに、キックオフの笛が鳴った。

 ベルギーではヒーローの引退試合という雰囲気は熱かったものの、試合自体は平凡だったが、今回の観戦に関しては内容も期待できるところはあった。

 なんといっても、ボルドーには優勝がかかっている。

 もう一度整理すると、シーズン最終盤でボルドーは1位。勝てば自力で、すんなり決まる。

 ただ、2位にはマルセイユが僅差で続いている。しかも、得失点差はマルセイユの方が上回っている。

 つまるところ、ボルドーは勝てば文句なしに優勝。もし引き分けても、マルセイユも引き分け以下なら大丈夫。最悪負けでも、マルセイユが負ければセーフ。

 ただしマルセイユに勝たれると、負ければもちろんのこと、今度はドローだと得失点差の関係で逆転される。細かい状況までは忘れたが、だいたいこんな感じだった。

 ボルドーからすれば「自力」の権利こそ持っているとはいえ、勝たなければ、大まくりを食らう可能性は充分だ。

 まさにシビれるような大一番なのである。これが盛り上がらないはずが、ないではないか。


 (続く→こちら






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