1999年サッカー フランスリーグ優勝決定戦 パリ・サンジェルマンvsボルドー その2

2017年08月04日 | スポーツ
 前回(→こちら)に続いて、フランスリーグ観戦記。

 テニスのフレンチ・オープン観戦に訪れたパリで、ついでにサッカーも見ようとチケットを取ったら、このシーズン最終戦のパリ・サンジェルマン対ボルドー戦が、思わぬ大一番でおどろくこととなる。

 勝てばボルドーの優勝が決定。負けると2位につけているマルセイユの結果次第と、まさにすべてをかけた決戦なのだ。

 舞台はパリのパルク・デ・プランスだが、雰囲気は数ではおとるはずのボルドーが圧倒している。

 試合は前半、ボルドーのペースで進んだ。それはそうだろう。なんといってもトップを走るチーム。そもそも地力がある。

 加えて、勝てば天国負ければ地獄の天秤の上にいるのだ。消化試合にすぎないパリSGとはモチベーションが根本から違うのだ。

 それは、観客席にも投影されているようだった。声を枯らして「ボルドー! ボルドー!」とさけぶ敵に対して、パリ側のスタンドはいかにもおとなしい。

 それは勝っても負けても立場が変わらない気楽さか、そもそもパリSGのファンはクールな人が多いのか。おそらくその両方なのだろうが、さほどの熱量が感じられないようで、みな静かに試合を見ている。

 それどころかボルドー側がミスをすると、残念そうに「あーあー」とため息をついたりする。どうもパリ側は

 「地元で優勝を決められるなんて屈辱」

 みたいな因縁はあまり重視しないようで、むしろ
 
 「敵やけど、優勝シーンを生で見られるんやったら、それはそれで楽しそうかもね」

 そんな気持ちの方が、強いようなのだ。

 このあたりも、ずいぶんとドライというか、まあゴール裏に席を取るような熱狂的な人以外は案外こんなもんかもしれない。都会人はクールだ。

 実際、試合の方も、勢いに勝るボルドーが先制点を奪う。はじけるボルドー側の客席。一方のパリ側は、「まあ、そんなもんやな」と、特にふがいないチームに憤激することもなく、うなずいている。

 そんな紳士的なムードの中、一人気を吐くパリジャンがいた。それは私の右斜め後ろに位置するおじさんであった。

 年齢的には50を超えて、ほとんどおじいさんのようだったが、パリSGのユニフォーム姿で、首にはチームのタオル。どちらも年季の入ったもので、おそらくは「年齢=ファン歴」という筋金入りなのだろう。

 この人だけは、周りのまったり感に影響されることなく、ひたすらに地元愛をつらぬいていた。

 パリの選手がいいプレーをすると拍手喝采し、ボルドーががんばると口笛を吹く。チャンスには雄叫び、ピンチには頭をかかえる。いかにも典型的なサッカー大好き地元おじさんだ。

 またこのジェルマンおじさん(勝手に命名)というのが、8歳くらいの孫を連れているんだけど、彼もまたユニフォームにタオルという完全武装にも関わらず、まったくサッカーには興味がないよう。

 地元のチームに一喜一憂するおじいちゃんをよそに、彼は心底クールというか、

 「どっちでもいいよ。でも、一緒に見てやると、じいちゃんよろこぶからな。これも年寄り孝行か」

 みたいな雰囲気を紛々とかもしだしており、なんとなくおじさんの家族の内情が察せられるというか、そのコントラストに思わず笑ってしまうのであった。

 そんなジェルマンおじさんの想いが通じたのか、それまで押されていたパリの選手たちが躍動し出す。

 やはり気楽な観客とは違って、選手からしたらライバルに意地の一発くらいはお見舞いしたくなるのだろう。勢いを得たパリは前半のうちに同点に追いついた。なめたらいかんぜよ、といったところか。

 1-1のまま、試合は後半戦には入る。同点のままだと、ボルドーは危ない。

 ここはぜひとも勝ち越し点がほしいと、さらに攻勢に出たのが当たって、後半10分くらいに再びパリを突き放す。2-1と、ボルドーがふたたびリード。

 今度こそ決定的か。残り時間が刻々と減っていく中、会場全体には、

 「ボルドー優勝おめでとう」

 な空気が流れている。もはやホームの勝利とか、どうでもいい雰囲気だ。どうやら、試合は決まったようだ。

 なかなか熱い試合やったなあ。こんなビッグゲームが見られるなんてラッキーやったなあ。

 などとすっかり終戦ムードで、帰って晩飯どうしようかなどと呑気に検討していたところだったが、どっこいお終いどころか、本当のドラマの幕開きというのが実のところここからというのだから、勝負というのはわからないものだった。


 (続く→こちら



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