Liner Notes

観たこと、聴いたこと、読んだことを忘れないように印象に残った光景を栞として綴ってみました

#79「思いもよらぬプレゼント」

2023-08-26 | Liner Notes
 社会人になりたての頃に揃えたオーディオ機器は当時わたしの宝物の一つでしたが、スマホで音楽を聴くようになってからはもはや部屋のお飾りになっていました。

 老いた父の在宅介護は約二か月ほど経ちますが、テレビを観てぼんやりと過ごすよりは、どうせならと思って好きな音楽を聴けるように父の部屋へ運び入れました。

 父が好きなグレンミラーオーケストラ、母が好きな越路吹雪、それぞれのベスト盤CDを聴くなかで、当時の記憶が甦るせいか二人は思い出話に花が咲き、それを聞く私たちにとっては、はじめて知る話もありました。

「〜 楽しい夢のような あの頃を思い出せば サン・トワ・マミー〜」(作詞 岩谷時子・S.Adamo)

 「サン・トワ・マミー」とは、"あなた無しではいられない"という意味だそうで、ひょっとしたら、この曲を聴くときにだけ"二人だけの〈世界〉が存在している"のかもしれません。

追伸 社会人なりたての自分へのプレゼントが約25年の時を経て両親へのプレゼントにもなり、そして、二人だけの〈世界〉を垣間見せてくれた物語のような気もします。

初稿 2023/08/26
写真 DENON USC-M10/UD-M10
撮影 2023/07/15

#78「かけがえのない雛祭り」

2023-04-01 | Liner Notes
 高校卒業後、故郷の佐賀を離れて約三十年になりますが、昨年十月の同窓会で帰郷した折の年老いた両親とのひととき。

 将棋の対局はいつも一勝一敗、なぜか勝ち越せないのは、もしかしたら年老いた父がわざと勝たせてくれているだけなのかもしれません。

 そんな父の世話を焼く年老いた母を観ていると、これまでもこれからも変わらない二人だけの〈世界〉が在るような気がします。

 ところで、誰しも生まれたからには死は免れぬものだからこそ、その一瞬一瞬の二人の〈世界〉のありようを留めようとしているもののひとつが雛祭りのような気もします。

 ひょっとしたら、お内裏さまとお雛さまの傍らに控える三人官女と御台人形もまた、両親の傍らに戯れる子供たちとの〈世界〉のひとつなのかもしれません。

初稿 2023/03/31
写真「鍋島家の雛祭り」
撮影 2023/02/22(佐賀◦徴古館)

#77「もうひとつの卒業式」

2023-03-25 | Liner Notes
 次女の小学校卒業式の前日、大学三年生の長女と大学一年生の長男がそれぞれ一人暮らしにもかかわらず戻ってきてくれて久しぶりの家族水入らずのひとときでした。

 翌日の卒業式、学校長の式辞で印象に残った言葉。

「大切なのは、あなたが『あなた』であること」

 ひょっとしたら、どこの学校出身でどこに勤めているとかいう何処ぞの何某ではなく、"わたしが〈わたし〉であるということは、どういうことなのか"という問いかけのような気がします。

 でも、"それがそうであること"を分かるには、それがそうでないことを分かることが大切であることかもしれません。

 だからこそ、独りよがりにならないように、〈わたし〉が〈あなた〉を知ることが〈わたし〉を知ることに他ならないような気もします。

 これから、それぞれがそれぞれの道を歩んでいきますが、ごくあたりまえなことを自らが問い続けることによって〈わたし〉を築いて、その向こう側の〈世界〉へと渡ってほしいと思います。

初稿 2023/03/25
写真「武庫大橋」1927.
撮影 2020/07/05

#76「かけがえのない選手権」

2023-01-13 | Liner Notes
 全国高等学校学校サッカー選手権は、高校サッカー日本一を決める最後の夢の舞台だと思います。

 たとえ、力が及ばず試合に出場できなくとも、どのような形であろうとも、その夢の舞台に立ちたいという思いで入部した長男。でも、その夢は高校三年間ではかなえられませんでした。※

 現役最後の昨年は、国立競技場への切符を僅差で逃しましたが、今年は大学一年生になった長男がOBとしての応援ではあるにせよ、その夢の舞台に立つことができました。

 約五万人の観客が応援するなかで、遠目から長男を覗くと、本人はどう感じているのかは分からないまでも、家族みんなでその夢に立ち会えたかと思えばこそ、「かけがえのない選手権」という物語なのかもしれません。

※)#68「もうひとつの選手権」

初稿 2023/01/13
写真 国立競技場(オリンピックスタジアム)
撮影 2023/01/09(東京・千駄ヶ谷)

#75「もうひとつの同窓会」

2022-10-10 | Liner Notes
 高校を卒業して約三十年、コロナ禍による延期があったものの、恩師の方々の模擬授業など、同期百有余人が集った同窓会。

 英語の模擬授業は、Apple社の創始者であるSteve Jobs氏が五十歳の時、とある大学の卒業式で講演した内容で、印象に残った言葉が、

「Stay Hungry, Stay Foolish.」
(愚直に取り組み、安住することなかれ)

 高校時代には意識して考えなかった校訓の一つである「鍛身養志」、その言葉を揮毫した書やレリーフがいまもなお教室や正門の傍らに在るさまをふと眼にすると、その言葉がもたらす意味や価値観なるものをあらためて考えるきっかけも与えてくれるような気がしました。

 ところで、"世界"という言葉をごくあたり前のように使いますが、ひょっとしたら、卒業した一人ひとりが歩んだ約三十年の道に沿って、それぞれの"世界なるもの"がそれぞれに存在しているのかもしれません。

 もしかしたら、それは自分にとって大切な物語の一つであるからこそ、そこに安住することなく、それはどういうことなのか、なぜそうなっているのか、そして、どうしたいのかと、問い続けることが大切なのかもしれません。

 ふと、約三十年前の卒業式で斉唱した校歌のフレーズがなんとなく甦えってくる気がします。

「〜世界の平和 祈りつつ 力ためさむ この生命」(佐賀県立佐賀西高校 校歌第四番抜粋)

追伸 幹事会や事務局のみなさま、充実した時間をありがとうございました。

初稿 2022/10/10
写真 母校正門に佇む校訓を刻んだレリーフ
撮影 2022/10/9(佐賀・卒業30周年記念同窓会)