Liner Notes

観たこと、聴いたこと、読んだことを忘れないように印象に残った光景を栞として綴ってみました

β3「雲のむこう、約束の場所」

2019-10-06 | Movie Reviews
 雲のむこうにそびえ立つ「塔」が示唆するのはなにか?もし、これまで選んでいればもたらされたはずの現実、もしくは、これから選ぶことによってもたらされる現実なのかもしれません。

 ひょっとしたら、そのすべての現実を知ることができる存在や原理が、雲のむこうにそびえ立つ「塔」として示唆されている気がします。おそらくそれは、人智の及ばぬ存在や原理を想起させる元型(アーキタイプ)のひとつ「老賢人」の暗喩のような気がします。

 でも、その「塔」へ連れて行くという「約束」を果たすことを選んだことによってもたらされた現実は、再び約束の場所をひとりで訪れること。

 見つめれば見つめるほどぼんやりとしか見えず、つかもうとすればするほど掌からこぼれ落ちてしまう現実。「秒速5センチメートル」にもすこしだけ重なる物語のような気がします。

(新海誠 監督作品, 2004)

初稿 2019/10/06
校正 2020/09/07
写真 デューイ記念碑(勝利の女神)
撮影 2019/09/08(サンフランシスコ・ユニオンスクウェア)

β2「言の葉の庭」

2019-09-28 | Movie Reviews
 「秒速5センチメートル」が喪失した「自我」を再生へと導く序章であるのならば、「言の葉の庭」は喪失した「自我」と自らが切り捨ててきた「影」との対話のような気がします。

 自らの在るべき姿であったり、自らが成りたいイメージが「自我」であるのならば、その実現のための惜しみない努力であったり、培った思考パターンが「意識」のような気がします。

 一方で、「自我」を追求する過程で切り捨ててきた、ふさわしくない、こう成ってはならないイメージが「影」かもしれません。「自我」を喪失しそうなとき「意識」はなりをひそめ、「影」が頭をもたげるような気がします。

 そんな「影」も「自我」も自らに他ならないと意識するとき、喪失した「自我」を取り戻して壁を乗り越えることができるのかもしれません。

追伸 
 映画で引用される柿本人麻呂の相聞歌に託されたのは、なにがあろうとも此処にいると詠うわたしを引き留めてくれる誰かが、ひょっとしたら自らの「影」のような気もしてきます。

「雷神(なるかみ)の 少し響(とよ)みて さし曇り 雨も降らぬか 君を留めむ」

「雷神(なるかみ)の 少し響(とよ)みて 降らずとも われは留らむ 妹し留めば」

(新海誠 監督作品, 2013)

初稿 2019/09/28
校正 2020/09/09(2021/12/12 追伸)
写真 根津美術館
撮影 2019/04/21(東京・南青山)

β1「秒速5センチメートル」

2019-09-21 | Movie Reviews
 桜の花びらが散りゆくスピードは秒速5センチメートルだそうです。そのスピードは受けとめようとしても掌からこぼれ落ちてしまうほど。

 散りゆく桜の花びらは美しさの象徴、自らが追い求める異性の理想像の暗喩なのかもしれず、ひょっとしたらユング心理学が提唱した無意識に潜む元型(アーキタイプ)と称されるアニマやアニムスなのかもしれません。

 振り返ったときそこに君はいない。必ずしも結ばれるとは限らない初恋の物語。

 自らを支配してきた記憶からの訣別は、喪失した「自我」を再生へ導く序章のような気がします。

(新海誠 監督作品, 2007)

初稿 2019/09/21
校正 2020/09/09
写真 神田川の桜
撮影 2012/04/08(東京・西新宿)