Liner Notes

観たこと、聴いたこと、読んだことを忘れないように印象に残った光景を栞として綴ってみました

§101「イエスの生涯」遠藤周作, 1973.

2020-03-28 | Book Reviews
 奇跡を起こすこともできず、人々からの期待を裏切り、誰からも見捨てられていくイエスという名の男の人生を描いた物語。
 
 期待とは意識が奏でる因果律のようなものなのかもしれません。期待はきっと誰かがかなえてくれるはず。その期待が大きいほど、疑うことなく熱狂する一方で、裏切られると失望に変わるような気がします。

 でも、誰かの悲しみに寄り添い、誰からも見捨てられてもなお、誰をも恨むことのなかった彼の生涯は、「永遠の随伴者」のイメージとして、彼と出逢った人々の心の奥深くに刻み込んだのかもしれません。

 ひょっとしたら、誰もが心の奥深くに秘めている「影」がもたらす、偽り・策略・謀略・悪意・支配を受けとめることは、自らの心の奥深くに秘めている「影」をも受け入れることなのかもしれません。

初稿 2020/03/28
校正 2021/12/27