Liner Notes

観たこと、聴いたこと、読んだことを忘れないように印象に残った光景を栞として綴ってみました

β11「時をかける少女」 細田守, 2006.

2021-08-06 | Movie Reviews
 1983年に公開された原作をモチーフとしつつも、三人の高校生が在るべき姿の模索を通じて自我を形成していく姿を描いた物語のような気がします。

 背景映像で印象に残るシーンは「急な坂道」と「夏空に拡がる入道雲」、そして「緩やかに流れる河」です。

 「急な坂道」は駆け下りることで日常の時の流れを超え、思うとおりに時の流れを操る力の暗喩なのかもしれません。

 でも、その力は日々を漫然と過ごす高校生にとっては自分に都合よく時の流れを変えてしまい、そのことによって他の誰かに及ぼす影響を少しづつ気づくようになります。

 また、「夏空に拡がる入道雲」は思春期の発達過程の暗喩なのかもしれません。

 身体的成長に伴う対人関係の変化や密接な友人関係に支えられ、自分は何に興味や関心があり自分に向いている進路や職業を模索することを通じて自我を形成していくようになります。

 一方で、「緩やかに流れる河」は人生を歩む人とともに寄り添いながら変わることのない普遍的な価値の暗喩なのかもしれません。

 主人公の叔母は約40年前の原作の主人公、彼女は博物館の学芸員として絵画の修復を通じて、時を超えて大切なことは何かを姪に伝える永遠の随伴者のような気がします。

 ところで、ユングの分析心理学によれば、恋いこがれる心理的状態は無意識に潜む理想の異性像であるアニマ/アニムスという元型のイメージが相手に「わが恋うひと」として投影されていると仮定しているそうです。

 とはいえ、わが恋うひとがどこから来たのか?どのように歩んできたのか?という事実や現実にあり得るかということよりも、誰にも理解してもらう必要のない秘密の物語を創ることが現実を受け容れることに繋がり、それが大人の階段を登るきっかけなのかもしれません。

初稿 2021/08/06
写真 "Time waits for no man."
撮影 2013/12/23(東京・国立博物館)