Liner Notes

観たこと、聴いたこと、読んだことを忘れないように印象に残った光景を栞として綴ってみました

§158「ハイデガー『存在と時間』の構築」 木田 元, 2000.

2022-08-22 | Book Reviews
 ハイデガーの「存在と時間」が未完の書に至った理由について、彼の手記や講義録を紐解いて書き遂げたかったであろうことも探った物語です。「ハイデガーの思想」 木田元(§157)の続編として読むと興味深いかもしれません。

 第一次世界大戦がもたらした破壊と惨劇によって、そこに在るものとして認識していた出来事や物事のかたちやありようが消失したとき、「そこに在ったものは何か、そもそも存在とは如何なるものか」という問いから、「存在と時間」という物語が始まったような気がします。

「存在という視点の設定は、ある範囲内で自由に委ねられている。その視点の設定の仕方によって、その視点のもとに見られる存在者全体のあり方が変わってくる」(p.197)

 過去から未来へと一方向に進む時間軸に沿って発達する科学技術が豊かな生活や安全な社会や平和な世界をもたらす近代化という世界観にとって、第一次世界大戦は危機的な問題だったと思います。

 ひょっとしたら、ハイデガーは戦禍による惨劇を再び繰り返すことのないように、「世界とは如何なるものであるか」を考えるきっかけを世に問おうとしたのかもしれません。

「彼は、人間中心主義的な近代ヨーロッパ文化を克服し、文化形成の新たな方向を切り拓くことができると思ったに違いない」(p.202)

 とはいえ、第二次世界大戦のみならず今もなお戦争を抑止することがいまだ困難な時代だからこそ、「存在と時間」は未完のままであり続けるような気もします。

初稿 2022/08/22
出典 「ハイデガー『存在と時間』の構築」
木田元, 2000. 現代岩波文庫 学術9
写真 プラハの天文時計, 1420.
撮影 2001/09/11(チェコ・プラハ)